京都大学 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス) iCeMS

物質-細胞科学の統合に向けたビジョン

北川進

京都大学 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)
拠点長
北川 進
2015年7月

 細胞の営みは、煎じ詰めれば化学で説明できます。化学で本当に説明できるならば、細胞の機能を化学物質で模倣できるはずです。本拠点の目的は、細胞の化学原理を理解し、幹細胞をはじめとする細胞の機能を操作する化学物質(Materials for Cell Control)、より将来的には、細胞機能に触発された機能材料(Cell-Inspired Materials)を創製することです。この目的を達成するために、京都大学が得意とする細胞生物学、化学、物理学の学際融合により、物質と生命の境界である研究領域を掘り下げ、究極的には物質-細胞統合科学という新研究領域を開拓します。

研究目標

 細胞の機能を化学で説明しようとする試みは、新しいものではありません。例えば、「生化学」ではタンパク質を出発点として細胞の機能を分子レベルで理解しようとし、「分子生物学」ではDN A から細胞の機能を理解しようとしました。タンパク質やDNAという小さな部品から細胞の営みを理解する試みは、医薬品産業やバイオテクノロジー産業にイノベーションを生みました。

 一方、細胞自身を出発点として生き物を理解する「細胞生物学」も長足の進歩を遂げました。胚性幹(ES)細胞や人工多能性幹(iPS)細胞の研究は、その代表でしょう。医薬品産業やバイオテクノロジー産業にイノベーションを生もうとしています。

 iCeMSが着目しているのは、中間の視点です。「細胞生物学」で細胞全体を見る大きな視点と、「生化学」や「分子生物学」でタンパク質やDNAを見る小さな視点の中間に位置する視点です。iCeMSでは、この中間の視点をメゾスコピックな視点と呼んできました。この数十~数百ナノメートル程度の領域(メゾスコピック領域)は生命と物質の境界です。この境界領域を探究すれば、細胞の生命活動を物質化学として理解することができ、最終的に物質で生命活動を再現できるのではないでしょうか。細胞と物質の境界領域を細胞生物学、化学、物理学を融合して確立するのが、私たちの目的です。この分野での世界トップ拠点を目指します。国際的かつ学際的な学問で培われた知識と技術は、医薬・環境分野など様々な産業に活力と新しい考え方を提供することが期待されます。iCeMSは、以下の2つの問題に焦点をあてた研究を推進します。

メゾとは


 iCeMSは、以下の2つの問題に焦点をあてた研究を推進します。


1. 「細胞機能を化学で理解し、操作する物質を創製することは可能か」

 細胞は、数多くの化学物質を自己組織化し、協同的に相互作用させることで生命活動を維持しています。それらの化学物質の挙動は時空間的に常に変化しています。ナノメートル領域という狭い領域で働く分子に着目するだけでなく、もう少し大きな領域─メゾスコピックな集団 - に目を向けることが必要です。このために、様々な可視化技術やモデル化技術、そして複雑な細胞の営みを解析する物理や化学の手法を開発し、それを基に細胞機能を操作する化学物質を創製する必要があります。私たちが取り組む代表的な研究領域は以下の3つです。

  • 核インフォメーションの操作(Manipulation of Nucleus Information)
    核は、細胞のCentral information の記憶と演算を司る。細胞分化とリプログラミングに伴う核クロマチン構造の動的変化と転写制御メカニズムを明らかにし、光応答性分子や高機能性分子を用いて核内の情報変換を可視化・操作する技術を開発する。
  • 膜コンパートメントの操作(Manipulation of Membrane Compartments)
    細胞膜領域は情報や物質の選択と濃縮、つまり細胞の内から外、外から内へのシグナル変換、エネルギー変換、物質交換を司る。それらの反応が膜領域で制御されるメカニズムを明らかにし、環境応答性を有する分子・分子集合体を用いて、光・磁場・熱などにより自在に変換反応を引き起こす技術を開発する。
  • 細胞コミュニケーションの操作(Manipulation of Cell Communication)
    細胞と細胞、細胞と物質との相互作用によって、多細胞生物の幹細胞から組織分化に至る過程が制御される。それらのメカニズムを明らかにし、足場材料(スキャフォールド)を分子レベルでデザインすることで、脳、心筋、生殖器などの機能構造を自在に再構築する技術を開発する。

2. 「細胞機構を物質で再現することは可能か」

 Richard P. Feynman 教授の有名な言葉があります。「What I cannot create, I do not understand.(本当に理解したものは作れるはずだ。作れないならば、本当に理解していない。)」つまり、真の理解は創造することによって検証できるという事です。iCeMSでは、少し将来の研究となりますが、細胞機能を物質で再現することに挑戦します(細胞機能に触発された機能材料)。(1)の問題で本当に細胞機能が理解できているなら、物質による細胞機能の再現は可能なはずです。理解と創造を同時に進行させることによって、理解度を確認しながら研究を推進し、以下の物質の創製を目指します。

  • 細胞膜機能に着想を得た物質:細胞膜上で行われている複雑な協調プロセスの理解に基づいた物質の開発
  • 細胞におけるエネルギー貯蔵:生物のエネルギー蓄積方法を模倣したイオンや分子を選別・蓄積する物質、二酸化炭素や一酸化炭素、メタンなどのガスをエネルギー蓄積材料に変換する物質の開発

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