世界標準確立を目指すiCeMSに、最初の外国人教授が赴任

頭脳流出から流入への第一歩
日本では例の少ない、理系の専任教授を海外から招へい


取材を受けるアグラジェ研究室メンバーと中辻 拠点長

物質-細胞統合システム拠点(アイセムス=iCeMS=Institute for Integrated Cell-Material Sciences)は、構成員の30%を外国人にすることを目標にしています。これは、研究員や学生だけでなく、教授職についても30%にすることを目指 しています。その皮切りとして、国際的に活躍しておられるロシア人のKonstantin Agladze(コンスタンティン・アグラジェ)教授が着任され、4月7日の午後0時半からラボ開きがおこなわれました。理科系の外国人研究者で、しかも かくかくたる業績を挙げられた方が、客員でも兼任でもなく、専任の教授として日本の大学に籍を置くことは、極めて異例です。アイセムスでは、世界的に著名 な研究者を積極的にスカウトする努力をおこなっており、このような流れを加速する予定です。

アグラジェ 教授はロシア科学アカデミー(*1)で生物物理学の博士号を取得し、同アカデミー主任研究員、米エモリー大学准教授、米ジョージワシントン大学シニアフェローなどを経て(添付の履歴書参照)、現在京都大学iCeMSの教授(主任研究者)。本日から、いよいよアグラジェ研究室が動き始めます。


アグラジェ研究室メンバーと、ラボ開きに参加した関係者

アグラジェ 教授は、CNRS(仏国立科学研究センター)、MPI(独マックス・プランク研究所)、ITC-irst(伊Center for Scientific and Technological Research)といった世界トップレベルの研究機関のフェローも歴任してきておられます。Nature誌、Science誌、Physical Review Letters誌等の有名誌に多くの重要な論文を出版されておられるほか、4件の国際特許(*2)を保持しておられます。そのようなアグラジェ教授がiCeMSを選んだ理由は何でしょうか?「アメリカなどでは競争原理が働きすぎ、同じ研究所の人間に対しても気を許せない。また日本では典型的弊害として"研究グループ間の壁"があるが、iCeMSでは運営方針(*3)で謳っているように、これを無くそうとしている。さらに、何回か滞在してみて、京都大学には独創性を育む雰囲気と強く感じていたことが、私の肩を押してくれた」ということで、京都大学の土壌とアイセムスの運営方針があってこそのスカウト成功といえます。

融合科学の先駆者であるAgladze 教授
非線形物理理論に基づき、全く新しいAEDの開発を目指す

アグラジェ 教授は、もともとは理論物理学者で、非平衡状態で実現する様々な興奮波のパターン形成の第一人者でした。その後、この研究に並行して、心臓組織で、拍動を制御する電流パターン生成の仕組みの研究も始められました。さらにこれを応用して、現在は、心室細動(致命的な不整脈の一種)のカオス的な拍動を正常な状態に戻す方法についての研究と開発に注力されています。現在、設置が進みつつあるAED(自動体外式除細動器)は、強い電圧をかけるため身体への負担が極めて大きいのですが、うまく時空間パターンを調整した電圧を加えることにより、極めて負担が少ない、しかも効果的に心室細動を正常拍動に戻す装 置の開発が期待できます。このような、基礎理論物理学から医療にまでまたがる研究は、まさに、iCeMSが標榜する「学際的融合領域の確立」と軌を一にするものであり、iCeMSの研究に大いに貢献していただけると期待しています。
「まず自分が専任として籍を置くことで、世界の有望な若手研究者が飛び込みやすくなると思う。彼らのための種をまき、道を作りたい。」――アグラジェ 教授は、iCeMSを真に「世界トップレベル研究拠点」にすることを強く意識しておられます。

用語解説

*1 ロシア連邦全土の学術研究機関を包括する、国立アカデミー。ロシアの最高学術機関であるため、その会員となることは学者、研究者にとって非常な名誉とされている。

*2
  1. 曲線形状の試験手法と装置 1987 旧ソ連 N 4280381/24
  2. 濃淡画像の前処理法 1989 ドイツ DD 265727A1
  3. 感光性記録媒体のコントラスト制御法 1989 ドイツ DD 264772A1
  4. 離散波形媒体 1990 旧ソ連 N 4786421/24

*3 iCeMS運営方針の一つ「共用実験室とオープンオフィス」要約:
日本の研究組織の典型的弊害として、「研究グループ間の壁」がある。本拠点では、この壁を取り払い、研究者間の日常的な交流と連携研究を促すことにより、 よりダイナミックな研究活動を実現する。全ての研究グループがベンチスペースを分け合う共用実験室を多数配置する。同時に、複数研究グループに所属する研 究者が同じ部屋にデスクを置くオープンオフィスシステムを採用して、異分野研究者間の日常的な交流を促進する。