上杉志成教授、ドイツイノベーションアワード「ゴットフリード・ワグネル賞」を受賞

2011年5月12日

 在日ドイツ商工会議所とドイツ企業12社は12日、第3回ドイツ・イノベーション・アワード「ゴットフリード・ワグネル賞2010」授賞式をドイツ連邦共和国大使公邸(東京)で開催し、受賞者5名を発表しました。

 1等賞には、上杉志成京都大学物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)教授が選出されました。受賞テーマは「細胞治療を助ける化合物の開発」です。

 2等賞は大友明 東京工業大学大学院理工学研究科教授に、3等賞は竹内純 東京大学分子細胞生物学研究所准教授、樋口昌芳 物質・材料研究機構独立研究者、八井崇 東京大学大学院工学系研究科准教授の3名に贈られました。

 同賞は、在日ドイツ商工会議所とドイツ企業12社により、日独間の産学連携とイノベーション創出を目的として2008年に創設されました。環境・エネルギー、健康・医療、安心・安全のいずれかの分野で、応用志向の研究に取り組む45歳以下の研究者を対象としています。第3回となる今回は、全国36の大学・研究機関から81件の応募がありました。

 授賞式では、同賞の名前の由来となったゴットフリード・ワグネル博士(1831-1892)が日本の近代化に果たした役割について、ワグネル氏が創立メンバーの一人となった 東京工業大学の牟田博光理事・副学長(経営担当)が記念講演を行いました。その後、同賞の選考委員会委員長の相澤益男 内閣府総合科学技術会議議員より、選考過程の報告と受賞研究についての紹介がありました。

受賞コメント(上杉志成教授)

「細胞治療によって、これまで薬では治せなかった病気を治せるようになる事が期待されます。ただし、そのままでは高価で、恩恵に浴する人は限られます。化合物の利点は、工業製品として安価に作れること。私たちは、細胞治療のコストを下げることを狙って研究を続けてきました。10年、20年後には、臨床で細胞治療が行われるようになっていると考えています。」

受賞チームメンバー


左から西川准教授、小泉教授、上杉教授

受賞テーマ「細胞治療を助ける化合物の開発」詳細

 人間の歴史の中で、生物活性小分子化合物は医薬品、農薬、生物研究のツールとして使用されてきた。上杉博士とその研究チームは、合成小分子化合物の新しい利用法として、細胞治療を助ける小分子化合物を提案した。同研究チームは、有機化学から臨床医学まで様々な分野において利用可能な技術を駆使し、ヒト細胞の根幹となる生命現象を調節する小分子化合物を見つけ、利用しようとしている。例えば、小分子接着因子と小分子成長因子があげられる。研究の目的は単に臨床で有用な化合物の発見にとどまらず、合成有機化合物一般の新しく広範囲で安価な利用法につながる革新的な設計法や化学合成法をも含んでいる。

 上杉博士の小分子化合物の創成と合成によって、複雑な細胞現象を究明し、細胞治療を改善することが可能である。博士らの研究チームは「アドへサミン」と命名した小分子をすでに創成している。「アドへサミン」は、培養ヒト細胞の接着と成長を促進する。この化合物を元にして、フィブロネクチンのように振舞う合成化合物を設計した。フィブロネクチンは、基礎生物学から化粧品にまで幅広い分野でよく利用されている天然のタンパク質である。博士らは、この巨大なタンパク質が大量化学生産可能な大きさの合成化 合物で置き換えられることを示した。この「小分子フィブロネクチン」の開発は、化学、生物学、医学への大きな貢献である。

 細胞と組織の増殖ならびに分化に不可欠な塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)を模倣する小分子化合物に関する研究も開始されている。これらをはじめとする各種の有効な小分子化合物の開発は、より安価で、効率性、安全性、有効性に優れた細胞治療への応用につながる可能性がある。

 小分子化合物ツールの開発が細胞生物学研究に必須であることは疑いないが、この業績は細胞治療分野においても幅広く応用されると思われる。細胞治療は、現在の小分子薬物治療では克服できない疾病を治癒する可能性がある。上杉博士の化合物が持つユニークな生物活性は、小分子化合物の細胞治療への幅広い応用を切り開くだろう。

授賞式の写真


マンフレッド・ホフマン駐日ドイツ商工特別代表(右)から楯を受け取る上杉教授(左)


受賞の挨拶をする上杉教授


歓談する関係者ら:左からカール・レーザー メルク株式会社代表取締役会長兼社長、ハンスディーター・ハウスナー バイエルホールディング株式会社代表取締役社長、上杉教授、フォルカー・シュタンツェル駐日ドイツ連邦共和国大使

関連リンク

関連記事・報道