王丹助教ら、脳の学習過程に関与するRNA反応の同定に成功 [PNAS]

2012年3月9日

 人間の脳は100兆個もあるシナプスを用いて神経ネットワークを形成し、学習・記憶などの高次機能を果たしています。経験に応じたシナプスでの情報伝達効率の変化によって新しい情報が保存される仕組みはシナプス可塑性と呼ばれ、記憶の基盤となっています。記憶を維持するには、神経細胞が特定のメッセンジャーRNAをシナプスへ局在させ、学習の過程でタンパク質合成が誘導されることが必須であることが最近明らかになってきましたが、神経細胞が選択的にメッセンジャーRNAをシナプスへ局在させるメカニズムは解明されていません。

 京都大学物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)の王丹助教はUCLAセメル神経科学・ヒト行動学研究所のExtenal LinkKelsey Martin教授らとの共同研究で、記憶形成に必須なペプチド伝達物質をコードするRNAについて解析しました。その結果、シナプス局在モチーフがRNA上に存在することを明らかにし、そのモチーフを同定することに成功しました。RNAの配列よりも、同定したモチーフの二次構造がシナプス局在「アドレス」として機能することが明らかになり、同定された「アドレス」モチーフを外来のRNAに連結することによって、外来のRNAがシナプスへ局在する能力を獲得するという発見につながりました。本研究により同定されたモチーフが、神経細胞の空間的遺伝子発現のメカニズム解明の手掛りとして活用されることが期待されます。


文献情報

Extenal LinkIdentification of a cis-acting element that localizes mRNA to synapses

Elliott J. Meer*, Dan Ohtan Wang*, Sangmok Kim, Ian Barr, Feng Guo, and Kelsey C. Martin
*These authors contributed equally to this work.

Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS) | DOI:10.1073/pnas.1116269109 | Published March 1, 2012