饗庭一博講師・中辻憲夫教授ら、ヒトES/iPS細胞から臨床応用に適した心筋分化誘導法を開発:安全・安価・高効率な再生医療の実現化に大きく貢献 [Cell Reports]

2012年10月26日

 京都大学(総長:松本紘)は、ヒト胚性幹(ES)細胞やヒト人工多能性幹(iPS)細胞を高効率に心筋細胞に分化促進させる新しい小分子化合物を発見し、それを用いることによって、高価な増殖因子や安全面で懸念のある動物由来成分を含まない新しい心筋分化誘導法を開発しました。この成果は、ヒトES/iPS細胞を用いた心臓病の再生医療の実現化に大きく貢献することが期待されます。

 中辻憲夫京都大学物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)拠点長、上杉志成iCeMS教授、饗庭一博iCeMS講師、南一成iCeMS研究員らは、山本拓也 京都大学 Extenal LinkiPS細胞研究所(CiRA)助教iCeMS京都フェローExtenal Link株式会社リプロセル等と共同で、ヒト多能性幹細胞(ES/iPS細胞)から心筋細胞に効率的に分化を促進させる新しい小分子化合物を発見しました。これまでにも既知の化合物やタンパク質を用いた心筋分化誘導法がいくつか開発されていますが、心筋分化効率や成熟度の低さや、培養液中に含まれる動物由来成分からの感染リスクの懸念、さらに高価な細胞増殖因子の利用によるコスト高など、ヒト多能性幹細胞から分化させた心筋細胞を実際に医療へ利用するための課題がありました。

 今回、新しい小分子化合物を用いることで、高価な増殖因子やウシ血清等の動物由来成分を使用しない、高効率な心筋分化誘導法を世界で初めて開発することに成功しました。この心筋分化誘導法をヒトES/iPS細胞のいくつかの細胞株で試したところ、すべてのES/iPS細胞株において、安定した高い心筋分化効率が得られ、最大98%の高純度の心筋細胞を得ることができました。また、この心筋細胞について心筋特異的分子の発現解析や電気生理学的な薬剤応答性の解析、電子顕微鏡による解析等を行ったところ、従来の方法で得られる心筋細胞より比較的成熟した心筋細胞であることを確認しました。この成果はES/iPS細胞から作る細胞の移植といった再生医療の実現化に大きく貢献する成果であるとともに、新薬の心毒性スクリーニングシステムの開発や心臓病の治療法の開発に役立つことが期待されます。

 本研究は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)プロジェクト「Extenal Link研究用モデル細胞の創製技術開発」(2005~2009年度/プロジェクトリーダー:中辻憲夫)、同プロジェクト「Extenal Linkヒト幹細胞実用化に向けた評価基盤技術開発」(2010~2015年度/サブプロジェクトリーダー:中辻憲夫)、内閣府/JSPS最先端・次世代研究開発支援プログラム課題「合成小分子化合物による細胞の操作と分析」(2011~2013年度/代表者:上杉志成)、JSPS科学研究費助成事業・若手研究(B)課題「Extenal LinkケミカルスクリーニングによるES/iPS細胞-心筋分化促進化合物の発見と機能解析」(2011~2013年度/代表者:南一成)の一環として行われました。本論文は、米国東部標準時間10月25日に米科学誌セル・リポーツ電子版で公開されました。

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文献情報

Extenal LinkA Small Molecule that Promotes Cardiac Differentiation of Human Pluripotent Stem Cells under Defined, Cytokine- and Xeno-free Conditions
Itsunari Minami, Kohei Yamada, Tomomi G. Otsuji, Takuya Yamamoto, Yan Shen, Shinya Otsuka, Shin Kadota, Nobuhiro Morone, Maneesha Barve, Yasuyuki Asai, Tatyana Tenkova-Heuser, John E. Heuser, Motonari Uesugi*, Kazuhiro Aiba*, Norio Nakatsuji
Cell Reports | Published online 25 October 2012 | DOI: 10.1016/j.celrep.2012.09.015
 


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