門田真氏・アグラゼ教授・中辻憲夫教授ら、ヒトES/iPS細胞から作った心筋細胞シートで不整脈モデルを開発:心臓病メカニズムの解明と細胞治療の安全性評価に貢献 [Eur Heart J]

2012年12月1日

 京都大学(総長:松本紘)は、ヒト胚性幹(ES)細胞・人工多能性幹(iPS)細胞から分化させた心筋細胞シートを用いて不整脈の心臓病モデルを作成し、薬剤による不整脈の治療効果を再現することに成功しました。この成果は、ヒトES/iPS細胞を用いた不整脈メカニズムの解明と新たな治療法の開発、さらには細胞治療への安全性評価に貢献することが期待されます。

 中辻憲夫(専門:幹細胞生物学)京都大学物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)拠点長、コンスタンチン・アグラゼ(専門:生物物理学)iCeMS教授、門田真(専門:循環器学)医学研究科博士課程(アグラゼグループ所属、中辻グループ受入)らは、ヒト多能性幹細胞(ES/iPS細胞)から心筋細胞に分化誘導させた後、その心筋細胞を低密度で培養することで、心筋梗塞後などに出現する不整脈の原因となる旋回波(心臓内における興奮の旋回)を起こす心筋細胞シートが形成されることを発見しました。また心筋細胞を比較的高密度で培養した場合は、興奮旋回を起こしにくい正常な心筋細胞シートが形成されました。さらに、旋回波が起こっている心筋細胞シートに抗不整脈薬を投与することで、その旋回波を止めることができることを示し、病状の再現だけでなく実際に臨床で使用されている薬剤の治療効果を再現することに、世界で初めて成功しました。これまで心筋細胞シートを用いた病態研究は動物モデルの研究のみであったため、ヒト心臓組織の病状を解明する手段は限られていました。本研究の成果によって、ES/iPS細胞からより臓器に近い形でヒトの心臓病メカニズムを解明することが可能になり、新たな治療法の開発に繋がることが期待されます。またヒトES/iPS細胞由来の心筋細胞による移植治療を行う際、治療後の移植細胞に起こりうる不整脈の出現リスクを、本研究の心筋細胞シートを用いて事前に評価することができるため、心筋細胞移植治療における安全性評価にも役立つことが期待されます。

 本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業・若手研究 (B) 課題「ケミカルスクリーニングによるES/iPS細胞-心筋分化促進化合物の発見と機能解析」(2011~2013年度/代表者:南一成)、特別研究員奨励費課題「興奮伝導性をもつ心筋組織の再生」(2010~2012年度/代表者:門田真)の一環として行われました。本論文は、欧州心臓病学会誌「ヨーロピアン・ハート・ジャーナル」電子版でロンドン時間2012年11月30日に公開されました。

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文献情報

Extenal LinkDevelopment of a reentrant arrhythmia model in human pluripotent stem cell-derived cardiac cell sheets
Shin Kadota, Itsunari Minami, Nobuhiro Morone, John E Heuser, Konstantin Agladze*, Norio Nakatsuji*
European Heart Journal | Published online 30 November 2012 | DOI: 10.1093/eurheartj/ehs418
 


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