斎藤通紀教授、多能性幹細胞から遺伝子を用いて生殖細胞を誘導することに成功

2013年8月5日

 京都大学 大学院医学研究科の斎藤通紀 教授(兼 JST ERATO研究総括、京都大学物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)主任研究者、京都大学iPS細胞研究所研究員)と同研究科の中木文雄さん(博士課程学生)らの研究グループは、多能性幹細胞であるマウスES細胞から、3種類の遺伝子(転写因子)を用いて始原生殖細胞を誘導する培養系を開発しました。また、この培養系で得られた始原生殖細胞から精子を作製し、子供を産み出すことにも成功しました。

 これまで本研究チームは、マウスES細胞やマウスiPS細胞から始原生殖細胞をサイトカインにより誘導し、さらに精子、卵子を作製することに成功していましたが、精子、卵子の元となる始原生殖細胞を直接誘導する遺伝子は特定されていませんでした。

 本研究グループは今回、ES細胞を分化させたエピブラスト様細胞(EpiLCs)に、Blimp1、Prdm14、Tfap2cの3種類の遺伝子(転写因子)を発現させることにより、始原生殖細胞様の細胞を得ることに成功しました。この細胞を不妊の雄マウスの精巣に移植したところ、正常な精子形成が確認されました。さらに、この精子を正常な卵子と体外受精させたところ、健常なマウスが得られました。これらのマウスは正常に成長し、子供を作る能力があることも分かりました。

 この研究により、生殖細胞の形成過程の解明に向けて大きく前進することが期待されます。また、この成果は世界で初めて生殖細胞が特定の遺伝子で誘導されうることを示したものであり、マウスのみならず、ヒトを始めとした他の動物種でも同様のアプローチがなされうるものと期待されます。

 本研究成果は、JST戦略的創造研究推進事業ERATOの一環として行われ、2013年8月4日(ロンドン時間)に英国科学誌「Nature」のオンライン速報版で公開されました。


文献情報

Extenal LinkInduction of mouse germ-cell fate by transcription factors in vitro
Fumio Nakaki1, Katsuhiko Hayashi1,2,3, Hiroshi Ohta1,4, Kazuki Kurimoto1,4, Yukihiro Yabuta1,4, & Mitinori Saitou1,2,4,5

Nature | Published Online 4 August 2013 | DOI: 10.1038/nature12417

  1. Department of Anatomy and Cell Biology, Graduate School of Medicine, Kyoto University, Yoshida-Konoe-cho, Sakyo-ku, Kyoto 606-8501, Japan.
  2. Center for iPS Cell Research and Application, Kyoto University, 53 Kawahara-cho, Shogoin Yoshida, Sakyo-ku, Kyoto 606-8507, Japan.
  3. JST, PRESTO, Yoshida-Konoe-cho, Sakyo-ku, Kyoto 606-8501, Japan.
  4. JST, ERATO, Yoshida-Konoe-cho, Sakyo-ku, Kyoto 606-8501, Japan.
  5. Institute for Integrated Cell-Material Sciences, Kyoto University, Yoshida-Ushinomiya-cho, Sakyo-ku, Kyoto 606-8501, Japan.

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