iCeMS京都フェロー山本助教ら、大規模遺伝子解析により体細胞の初期化過程でRNAスプライシングパターンが変化することを解明

2013年10月21日

 太田翔大学院生(京都大学CiRA/京都大学大学院生命科学研究科)、山本拓也助教(京都大学CiRA/京都大学iCeMS)らの研究グループは、体細胞からiPS細胞へと初期化する過程で、RNAを切り貼りするスプライシングパターンも初期化されることを明らかにしました。

 選択的スプライシングは一つの遺伝子から複数のタンパク質をつくる仕組みの一つです。これによりタンパク質の種類が豊富になり、より複雑で柔軟性のある仕組みをつくることが出来ます。分化した細胞にはそれぞれ特徴的なスプライシングのパターンがあり、各細胞に固有の機能や特性を生み出しています。スプライシングパターンが変わってしまうことで生じる疾患も多数報告されています。さらに、多能性と無限増殖性をもった細胞であるES細胞では、ES細胞に特徴的なスプライシングが行われていることが報告されています。つまりスプライシングのパターンは細胞を特徴付ける大きな要因であるといえます。

 分化した細胞に初期化因子を導入することでiPS細胞へと初期化されますが、その過程でスプライシングパターンも変化しているのかどうか、明らかにはされていませんでした。もし、スプライシングパターンが変化しなければ、同じiPS細胞であっても由来細胞によって大きく性質の異なるiPS細胞になる可能性が考えられます。そこで山本助教らは、大規模遺伝子解析の技術を用いて体細胞とiPS/ES細胞のスプライシングパターンを解析したところ、体細胞のスプライシングパターンが多能性を持ったパターンへと戻ることを明らかにしました。特に、iPS/ES細胞のスプライシングパターンは精巣のものとよく似ていました。多能性を持ったスプライシングパターンを作る仕組みとして、iPS/ES細胞で特徴的に働くRNA結合タンパク質がスプライシングを調節し、パターンを特徴付けている事を見出しました。中でもU2af1とSrsf3というRNA結合タンパク質を働かないようにしたところ、体細胞からiPS細胞へと変化する効率が低下し、U2af1およびSrsf3が初期化に重要な役割を果たしていることが明らかになりました。これらの結果から、スプライシングパターンの変化が、初期化過程に携わる分子ネットワークに主要な役割を果たしていることが示されました。

 この成果を応用することで、iPS細胞の品質評価やiPS細胞作製時の効率や時間の改善などにも利用できる可能性が考えられます。

 本研究成果は2013年10月17日(木)(米国東部時間)に米国科学誌「Cell Reports」のオンライン版に掲載されました。


文献情報

Extenal LinkGlobal Splicing Pattern Reversion during Somatic Cell Reprogramming

Sho Ohta1,2, Eisuke Nishida2,3, Shinya Yamanaka1,4,5, and Takuya Yamamoto1,4*

Cell Reports | Published 17 October 2013 | DOI: 10.1016/j.celrep

  1. Department of Reprogramming Science, Center for iPS Cell Research and Application, Kyoto University, Sakyo-ku, Kyoto 606-8507, Japan
  2. Department of Cell and Developmental Biology, Graduate School of Biostudies, Kyoto University, Sakyo-ku, Kyoto 606-8502, Japan
  3. JST, CREST, Chiyoda-ku, Tokyo 102-0075, Japan
  4. Institute for Integrated Cell-Material Sciences (WPI-iCeMS), Kyoto University, Sakyo-ku, Kyoto 606-8507, Japan
  5. Gladstone Institute of Cardiovascular Disease, San Francisco, CA 94158, USA

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