光でガス分子を自在に取り出せる空間材料を開発 -記憶形成・血管拡張など、細胞内NO ガスの謎を知るカギに-

2013年10月25日

 京都大学(総長:松本紘)の北川進物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)拠点長・教授、古川修平iCeMS准教授、ステファン・ディーリングiCeMS助教らの研究グループは、一酸化窒素(NO)を光により自在に取り出すことが可能な多孔性構造体の開発に成功しました。さらに、亀井謙一郎iCeMS助教らのグループと協力し、この材料を細胞培養基板に埋め込むことで、細胞の狙った場所をNOで刺激することに成功しました。この成果は、数多くの生理現象に関係しているNOの役割の生体内での謎を解く、新しい手法として期待されます。

 NOは一般的には毒性のガスとして知られています。しかしながら、私たちの身体の中においては非常に重要なガスであり、生体内の様々な情報伝達の役割を担っていると考えられています。この驚くべき発見に対し、1998年にノーベル医学・生理学賞*3が授与されています。ところが、その細胞内における分子レベルでの役割は、現在もあまり解明されていませんでした。

 今回の研究では、有機物と無機物からなる「多孔性金属錯体(PCPもしくはMOF、以下『PCP』という)*4」というナノ細孔をもつ結晶性の多孔性材料を用いてNOを高密度に閉じ込め、光を当てた時のみ素早く取り出すことのできる物質を開発しました。この物質を細胞培養基板の中に埋め込み、レーザーを用いて狙った場所にのみ光を当てることで、特定の細胞にNOを取り込ませることが可能になりました。また、この細胞培養基板は、他にも数多くの細胞種(ES/iPS細胞、神経細胞など)の培養・刺激試験に応用できます。

 本成果により、NOが直接関与しているとされる血管拡張、記憶形成、免疫、代謝などの生物学・医学分野において、細胞の中でのNOの役割解明に寄与することが期待されます。

 本成果は2013年10月25日10時(英国夏時間)に英オンライン科学誌「Nature Communications (ネイチャーコミュニケーションズ)」で公開されました。


文献情報

Extenal LinkLocalized cell-stimulation by nitric oxide using a photoactive porous coordination polymer platform
Stéphane DIRING1, Dan Ohtan WANG1, Chiwon KIM2, Mio KONDO1, Yong CHEN1, Susumu KITAGAWA1,2, Ken-ichiro KAMEI1,*, Shuhei FURUKAWA1,*

Nature Communications | Published Online 25 October 2013 | DOI: 10.1038/ncomms3684

  1. Institute for Integrated Cell-Material Sciences (WPI-iCeMS), Kyoto University, Yoshida, Sakyo-ku, Kyoto 606-8501, Japan
  2. Department of Synthetic Chemistry and Biological Chemistry, Graduate School of Engineering, Kyoto University, Katsura, Nishikyo-ku, Kyoto 615-8510, Japan

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