精子と卵子を産み出す細胞分裂に重要なタンパク質脱リン酸化酵素の発見

2014年10月24日

京都大学(総長:山極寿一)物質-細胞統合システム拠点 (iCeMS)の Peter Carlton(カールトン ピーター)准教授の研究グループは、精子と卵子を産み出す細胞分裂、減数分裂、において保存されたタンパク質脱リン酸化酵素PP4が、重要な役割を果たすことを発見しました。

減数分裂は、ゲノムDNAを半分にして精子・卵子を作り出す、特殊な細胞分裂です。私たちの体の細胞は、普通、母親と父親の両方から受継いだ2セットのゲノムDNA(2倍体)を持ちます。しかし、私たちが精子と卵子を産み出すとき、このゲノムDNAを半分にしておく(1倍体にする)必要があります。なぜならば、この1倍体の精子のDNAと卵子のDNAが受精により出会い、再び、2倍体のゲノムDNAを持つ受精卵が生まれるからです。減数分裂における失敗は、1倍体ではないゲノムDNA(1倍体よりも多すぎる、もしくは少なすぎる)を持つ精子や卵子を産み出し、これらの精子や卵子は、受精できても、正常な発生ができない症例(流産、死産)、もしくは染色体異常児の出産(21番染色体が1本多いダウン症など)につながります。 

私たちは、減数分裂における正確なゲノムDNAの半数化を支えるメカニズムを理解するため、卵母細胞が非常に豊富なモデル生物線虫を用いて、減数分裂に必須なタンパク質を探索しました。その結果、生物種間を越えて、広く保存されているタンパク質脱リン酸化酵素PP4が、減数分裂前期の染色体のふるまいを制御するために機能することを明らかにしました。減数分裂前期、父由来と母由来の相同な染色体同士は、隣同士に並んで、相同組み換えを起こすことにより、ゲノムDNA半数化に必須な構造(キアズマと呼ばれます)を作り出します。PP4を欠損した卵母細胞では、この相同染色体が隣に並ぶ段階と、相同組み換えを起こす段階それぞれに独立して不具合が生じるため、最終的に異常な卵子を形成してしまいます。また興味深いことに、若い線虫と、老いた線虫の減数分裂を比較すると、老いた線虫が卵子を産み出す際に、PP4の働きがより重要であることもわかりました。減数分裂前期の相同染色体が隣に並んだ構造は、非常に複雑かつ微細であるため、本研究は、超解像度顕微鏡3D-SIM(3次元構造化照明顕微鏡)という最先端の顕微鏡技術を用いて、生殖細胞のゲノムDNAの構造を解析しました。本研究でその機能を明らかにしたタンパク質脱リン酸化酵素PP4は、ヒトでも保存されているため、本研究は、現代社会で急速に増加しつつある不妊問題の理解に貢献する可能性があります。 

本成果は2014年10月23日(木)に英国オンライン科学誌「PLOS Genetics(プロス ジェネティクス)」で公開されました。 


Publication Information

Extenal LinkProtein phosphatase 4 regulates homologous chromosome pairing and synapsis, and maintains recombination competence with increasing age

Aya Sato-Carlton1, Xuan Li1, Oliver Crawley2, Sarah Testori2, Enrique Martinez-Perez2, Asako Sugimoto3, Peter M. Carlton1

PLOS Genetics | Published Online 23 October 2014 (2PM EST)| DOI: 10.1371/journal.pgen.1004638

  1. Institute for Integrated Cell-Material Sciences (iCeMS), Kyoto University, Kyoto 606-8501, Japan
  2. MRC Clinical Sciences Centre, Imperial College Faculty of Medicine, London, UK
  3. Laboratory of Developmental Dynamics, Graduate School of Life Sciences, Tohoku University, Sendai, Japan