遺伝子のスイッチがDNAの修復を促進-細胞の癌化を防ぐ

2016年2月15日


ダメージを受けたDNA(イメージ)。損傷の修復促進に、今回働きが解明された5hmCが重要な役割を果たす。
©Bruce Rolff (123rf)

 京都大学 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)Peter Carlton 准教授の研究グループは、DNAの損傷修復に重要な修飾の働きと、その欠落が腫瘍形成につながる仕組みを解明しました。

 DNAを構成するシトシンという塩基がうける修飾の一つに、ヒドロキシメチル化という修飾があり、従来、この修飾(ヒドロキシメチル化シトシン:5hmC)は、遺伝子の発現制御に重要な役割を果たしているのではないかと考えられてきました。今回同グループは、5hmCがゲノム中の損傷を受けたDNA部位に集積して修復を促進することを発見するとともに、5hmCのDNA修復における働きにはTETと呼ばれる一群の酵素が重要であることも明らかにしました。

 細胞内で遺伝子の働きをオンにしたりオフにする際、DNAにメチル基を加えたり取り除いたりすることで遺伝子の働きを制御することができます。メチル基の除去(脱メチル化)の際、5hmCがその中間生成物としてDNA上に存在します。TET酵素は、この脱メチル化に必要な酵素と考えられています。最近の研究により、5hmCは、細胞核において開放型のクロマチン(DNAとタンパク質の複合体)と共に存在することが知られています。


5hmCとTET酵素は、DNA損傷部位を標識するために重要で、ゲノム機能を保つために働く。
©論文著者

 同グループは、細胞内で自然に傷ついたDNAやDNA損傷誘導化合物、レーザー照射などにより人工的に傷つけられたDNAの損傷部位に、5hmCが集積することをCell Reports誌で発表しました。また同チームは、TET酵素を除去すると、DNA損傷部位における5hmCが消失すること、そしてその細胞では染色体の分配に不具合が起こることも明らかにしました。これは、TET酵素がDNA損傷部位における5hmCの生成に重要であり、5hmCがDNA損傷を修復するプロセスに重要な役割を果たすことを示します。

 本研究は、5hmCがクロマチンを開放型にして、DNA損傷の修復に働くタンパク質がDNAの傷にアクセスできるようにしている可能性を示唆しています。また、5hmCをDNA損傷部位の目印として活用する考えも示されました。

「我々の発見は、何らかの理由によりTET酵素や5hmCが減少した場合、それがゲノムの不安定化、不正確な染色体の分配、そして最終的に細胞の癌化に繋がることを示しています。この知見により、癌細胞でよく見られる5hmC量の低下という現象を説明できる可能性があります。」と研究チームは話しています。


 本成果は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業および(CREST)国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)研究領域「エピゲノム研究に基づく診断・治療へ向けた新技術の創出」、独立行政法人日本学術振興会外国人特別研究員、 公益財団法人稲盛財団研究助成金、公益財団法人住友財団基礎科学研究助成の支援を受けて行われ、2016年2月4日にCell Reports誌にて公開されました。



文献情報

Extenal Link5-Hydroxymethylcytosine Marks Sites of DNA Damage and Promotes Genome Stability
Georgia Rose Kafer1,2, Xuan Li1, Takuro Horii3, Isao Suetake4, Shoji Tajima4, Izuho Hatada3, Peter Mark Carlton1,2*

*Corresponding author

Cell Reports | Published Online 4 February 2016
doi: 10.1016/j.celrep.2016.01.035

  1. Institute for Integrated Cell-Material Sciences (WPI-iCeMS), Kyoto University, Yoshida-ushinomiyacho, Sakyo-ku, Kyoto 606-8501, Japan
  2. CREST, Japan Science and Technology Agency
  3. Laboratory of Genome Science, Biosignal Genome Resource Center, Institute for Molecular and Cellular Regulation, Gunma University, Maebashi, Gunma 371-8511, Japan
  4. Laboratory of Epigenetics, Institute for Protein Research, Osaka University, Suita, Osaka 565-0871, Japan