第13回 iCeMSカフェを開催しました

掲載:2013年1月16日

第13回iCeMSカフェ

第13回iCeMSカフェ

第13回iCeMSカフェ

第13回iCeMSカフェ

第13回iCeMSカフェ

第13回iCeMSカフェ

 

 12月に入り、ぐっと冷え込んできました。12月8日(土)のiCeMS本館2階交流ラウンジでは、12名の参加者の方々とともに、第13回iCeMSカフェ:“iPS 細胞と「研究」とわたし”が行なわれました。

 今回のゲストは山本拓也さんと山本グループの皆さんです。山本グループの研究対象は、今話題のiPS細胞です。今年10月の山中教授のノーベル賞受賞もあって、新聞やテレビで取り上げられることが多かったiPS細胞。「夢の技術」と呼ばれることもありますが、まだわからないこともたくさんあります。普通の細胞がiPS細胞へ変化する際、いったい何が起こっているのか、その仕組みを解明することが山本グループの研究目的だそうです。

 「ゲノム」と「幹細胞」について、まずは基本的な知識の確認です。山本さんがパネルを用いて説明しました。ゲノムとは生物の体をつくるための設計書のようなもので、体の細胞すべてにこの情報が入っています。ヒトのゲノムの情報量はたいへん膨大で、仮にA4コピー用紙にぎっしり書き込んでなんと200万枚!積み重ねると京都タワーもこえてしまうというから驚きです。こうした膨大な情報を読み取るのが、「シーケンサー」という機械です。近年の目覚ましい技術の進歩によってこれまでよりも時間的、経済的に優れた次世代シーケンサーが登場しました。こうして読み取られたヒトゲノムはいわば「究極の個人情報」であり、その管理にも十分注意していかなくてはならない、とのこと。

 次に今回の主役、iPS細胞について。iPS細胞のような「幹細胞」は、自分のコピーをどんどん増やす「自己増殖能」と色々な種類の細胞になることができる「多分化能」を持った細胞です。わたしたちの体も、もともとはこうした性質をもった1つの細胞(受精卵)が、様々な細胞へ分化することで出来上がったものです。分化しきった後の細胞は、ふつうはもともと持っていた多分化能を失ってしまうはずですが、いくつかの遺伝子(「山中ファクター」ともよばれています)を細胞に入れると、未分化状態に戻るということが発見されたのです。マウスでの実験からわずか1年で、ヒトの細胞でもこの試みは成功しました。

 iPS細胞の技術は、たとえば体のある組織で働く薬の効き目を試験的に確かめるために用いられることや、ヒトの臓器や組織移植の分野での応用が期待されています。しかし実際には、分化と増殖のコントロールに失敗しガン化してしまうかもしれないという危険性があること、そもそもうまくiPS化する確率が非常に低いということなど、安全性や生産効率にはまだまだ課題が多く、実用化にはあと数十年はかかるそうです。

 テーブルでは、様々な話題が飛び出しました。「ヒトゲノムがわかれば、その人の性格や寿命までわかってしまうんですか?」「iPSがあったら人間は不死身になれる・・・の?」「亡くしたわが子のクローンを果たして愛せるだろうか?」などなど、科学の枠を超え、社会的・倫理的な話になることも。

他にも、iPS細胞の研究者のみなさん自身についての話もいろいろ出ていました。「研究者を目指したきっかけは?」という質問の答えは、「不思議な物事に出会った時の驚き。『もっと知りたいな』そう思ったのがきっかけです。」でした。「1つのことを突き詰めていくのが仕事だけど、英語や数学など、いろいろなことにも手を伸ばさなければいけない。自分の好きなことができる一方で、その研究成果を社会へ還元していかなくてはいけない、という責任も伴う仕事だ。」という話を聞きました。研究者の道は険しそうですが、だからこそ成果が出たとき、誰も知らないようなことを発見したとき、この上ない喜びを感じるそうです。

華々しい報道の一方で、「聞いたことはあるけれど、その実態はさっぱり・・・」という人も多いiPS細胞。日常生活の中ではほとんど接点のない最先端の研究の世界でしたが、途中クリスマス仕様のお菓子も登場し、研究グループと参加者のみなさんとの対話は大いに盛り上がり、終了予定時刻を1時間近く過ぎても話は続いたのでした。

 「次回の案内を送って」などなど、ご意見やご案内を希望される方は science-cafe@icems.kyoto-u.ac.jp までご連絡ください。お待ちしています!!

文 :倉田康平(京都大学農学部 1回生)、iCeMS科学コミュニケーショングループ
写真:大森貴生


テーマ iPS 細胞と「研究」とわたし
ゲスト 山本拓也(京都大学iCeMS 京都フェロー/CiRA助教)、他 山本グループのみなさん
開催日時 2012年12月08日(土曜日)14時00分-15時30分
開催場所 iCeMS本館 2F交流ラウンジ
当日のお茶とお菓子 ほうじ茶 小倉かおり(丸久小山園)、お抹茶パウンド(京洋菓子司 ジュヴァンセル)、クリーム五色豆(京都・夷川 豆政)、ほろほろ佇古礼糖 柚子(京都 北山 マールブランシュ)
主催 京都大学 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)