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拠点長ビジョン

物質-細胞科学の統合に向けて

川 進

物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)
特別教授/拠点長

細胞は核酸、タンパク質、脂質、糖などの化学物質によって構成されています。煎じ詰めれば、細胞の営みは化学反応で説明できます。化学の言葉で細胞の活動を説明できるならば、細胞の機能を化学物質で模倣できるはずです。本拠点の目的は、細胞の機能を理解するために必要な化学物質を作製すること(materials for understanding cell)、細胞の機能を操作する化学物質を作製すること(materials for controlling cell)、そして将来的には、細胞機能に触発された機能材料を創製すること(cell-inspired materials)です。この目的を達成するために、京都大学が得意とする細胞生物学、化学、物理学、数学の学際融合により、生命と物質の境界である研究領域を掘り下げ、究極的には物質-細胞統合科学という新研究領域の開拓を目指します。

ではこの新研究領域を開拓するのに必要なのはどんな要素でしょうか。細胞科学と物質科学の両方を研究している研究者をたくさん集めることでしょうか。私が考えるに真に学際的な研究というのは、開拓心のある専門分野に秀でた優秀な人材が同じ場所に集い、お互いを意識しあうことによって生まれるものだと思います。すなわち、細胞のことを真に理解している研究者、材料について極めた研究者が共存し交わることで初めて、新しい研究領域が生まれるとも言えます。一つの研究分野を樹立した成熟した研究者だけではなく、創造性と柔軟性に富んだ若い研究者がたくさん集うことも重要でしょう。そしてそこでは、研究者一人一人が独自の研究領域を開拓していることに加えて幅広い視野を持っていることが必要です。また、他の研究分野を意識できるような研究環境が用意されている必要もあるでしょう。前者に関しては、iCeMSはそのような研究者を積極的に集めることでこれまでに組織を作り上げ、後者に関しては、iCeMSにおける研究環境そのものが他の研究分野への視野を広げるハブとして機能していると言えます。

例えば、iCeMSにおいて研究員のオフィスはオープンスペースとなっており、異なる研究分野の研究者が隣り合って座ることで互いに刺激を受けあっています。また、シンポジウムやリトリートなど、ほぼ全てのイベントは細胞科学と物質科学、両分野の研究者が同じ場所に集って行われます。ここでは、自分の専門分野を他分野の研究者に伝えることが求められると同時に、同じ分野の研究者を研究内容で満足させる必要があります。すなわち、それぞれの研究者が自分の研究の独創性と本質(エッセンス)を見つめ、その重要な点を正確にかつ分かりやすく伝えることが必要なのです。そしてその研究内容が伝わった時にようやく、他の研究者がインスパイアされ、新しいアイデアが創出される土壌ができます。

異なる分野の研究者が集うと、情報の共有化、価値観の統一化が難しいという意見も聞きます。iCeMSにおいては、拠点として掲げる目標のもと、個々が新しい領域を開拓するという強い意識を持ち、異なる考え方、価値観を受け入れることで困難を克服し、このことを強みとしてきました。そしてそれによって、全く新しい考え方・価値観が創出されることを実感しています。このような研究環境の中、iCeMSでは以下の研究領域に着目し現在研究を展開しています。

1. 「細胞機能を化学で理解し、操作する物質を創製することは可能か」

細胞は、数多くの化学物質を自己組織化し、協同的に相互作用させることで生命活動を維持しています。この細胞の機能の営みを理解するためには、解析に必要な化学物質・材料を作製し、それらを用いて細胞の解析を進める必要があります。そしてそこから得られた知見を基に細胞機能を操作する化学物質を創製しようと考えています。

2. 「細胞機構を物質で再現することは可能か」

Richard P. Feynman 教授の有名な言葉があります。「What I cannot create, I do not understand.(本当に理解したものは作れるはずだ。作れないならば、本当に理解していない。)」つまり、真の理解は創造することによって検証できるという事です。本当に細胞機能が理解できているなら、物質による細胞機能の再現は可能なはずです。理解と創造を同時に進行させることによって、理解度を確認しながら研究を推進し、新たな物質の創製を目指します。