研究

2020年3月3日

進化する遺伝子治療:PIPで躍進

化学のアーミーナイフのごとく、新規DNA結合分子が複数のツールをまとめて1つの合成プラットフォームにします。(イラスト:高宮ミンディ)

 京都大学アイセムスのガネシュ・パンディアン・ナマシバヤム講師、ユウ・ズタオ特定研究員、杉山弘 連携PI(兼 理学研究科教授)らの研究グループは、特定のDNA配列に結合する分子に、遺伝子改変分子を結合して機能を持たせることのできる化合物を合成しました。DNAに結合し遺伝子を活性化させる可能性もつ新たな化合物により、がんや遺伝性疾患の新たな治療法が開発できると期待されています。

 研究者らは長年、ピロール-イミダゾールポリアミド(PIP)と呼ばれる、特定のDNA配列を見つけて結合することができる分子について研究を重ねてきました。その研究の中で、遺伝子情報の発現をスイッチのようにオン・オフと切り替えられる薬剤をPIPへ結合することで、薬剤を狙ったDNA配列に運んでゆくことを目指し、実験をすすめてきました。

 そのような手法の一つとして、転写因子と呼ばれるタンパク質同様に、DNAと強力に結合し特定の遺伝子を標的として、その遺伝子をオン・オフに切り替えさせることができる、ホスト-ゲスト複合体(HoGu)をPIPに組み合わせる方法を開発しています(PIP-HoGu)。

 PIP-HoGuは、転写因子がDNAに結合することでDNAの情報が実際の生命現象につながるのを妨げることができ、その結果、様々な生物学的効果を引き起こすことができます。

 ただし、これまでのPIP-HoGuには、特定の遺伝子を活性化する能力はありませんでした。そこで、研究グループは、PIP-HoGuとエピジェネティック調節分子を組み合わせることで、遺伝子に結合して遺伝子活性化させるための実験をすすめました。

 まず、DNAに強力に結合でき、毒性がなく、水溶性でかつ細胞膜を透過することができ、加えて化学的に安定な分子を選ぶことにより、PIP-HoGuのデザインを改良しました。 そして、この分子を更に微調整して、特定のDNA配列を標的にできるようにしました。

 次に、この新しいPIP-HoGuを エピジェネティック調節分子と結合させ、ePIP-HoGuを合成しました。これにより、より特異的に標的のDNA配列に結合し、これら配列が巻きついているヒストンを効率的よく修飾し遺伝子を活性化できることを確認しました。

 今回開発したePIP-Hoguは、主にDNA結合のためのPIP、繋ぎの分子、エピジェネティック調節分子の3つで構成されています。これら3つの各構成要素を構造最適化することにより、望ましい活性を得ることに成功しました。ePIP-Hoguのあらゆる可能性を探求し、今後さらなる最適化を行うことで、生物の研究や治療分野への応用されていくことが期待されます。

 この成果は2020年1月15日学術誌 ChemComm に発表されました。

詳しい研究成果はこちら

“A synthetic transcription factor pair mimic for precise recruitment of an epigenetic modifier to the targeted DNA locus”

書誌情報

著者:Zutao Yu, Mengting Ai, Soumen K. Samanta, Fumitaka Hashiya, Junichi Taniguchi, Sefan Asamitsu, Shuji Ikeda, Kaori Hashiya, Toshikazu Bando, Ganesh N. Pandian, Lyle Isaacs, and Hiroshi Sugiyama

DOI: 10.1039/c9cc09608f