笠井倫志研究員、楠見明弘教授ら、受容体GPCRの2分子結合・解離の定量計測に成功:分野横断的な薬剤開発研究に道を拓く [Journal of Cell Biology]

2011年2月8日

 楠見明弘京都大学物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)教授、笠井倫志iCeMS研究員、エリック・プロスニッツ米ニューメキシコ大学教授らの研究チームは、細胞膜での2分子結合の定量計測法の開発に世界で初めて成功し、医薬分野で最も重要な受容体クラスGPCRの2分子結合の決定にも成功しました。

 Gタンパク質共役型受容体(G-protein-coupled receptor = GPCR)には、約1000種類のものがあり、ヒトゲノムの3%を占める一番大きなスーパーファミリーを形成しています。認知・情動・感覚・代謝・内分泌・循環・炎症・免疫などの多様な生理的機能に関与しています。GPCRの重要性はGPCRの異常が多くの深刻な疾患の原因となることからも明らかでしょう。実際、全世界の新薬開発費用のおよそ半分が、GPCRに結合する新薬開発にあてられています。

 GPCRは、1分子がソロで働くとすると説明が難しい働きをしたり、異種GPCR2分子の間でシグナルをやりとりするように見えることが広く知られていました。しかし、2分子で働くという確たる証拠は得られず、このように重要な受容体でありながら、2分子のペアで働くのか、1分子がソロで働くのかは、この15年来の重要課題でした。この問題に、1分子イメジングのメスを入れることにより、非常に明解に、この問題が解決されました。すなわち、GPCRは1秒間に4回くらい相手を変えながら2分子対を形成し、1分子と2分子の2つの状態の間を行き来していたのです。

 本研究で開発された方法により、他の膜分子の結合・解離も調べられるようになりました。このような定量解析が進むことによってはじめて、受容体とシグナルネットワークのシステム生物学・医薬学の大きな進展が可能となり、さらに、細胞膜でのシグナル伝達という重要な現象が、物理・化学・工学・生物学・医学薬学などの分野横断的な研究対象となり得ます。また、新しい薬剤デザインとして、GPCRを2量体だけに、あるいは、単量体だけにするという道が示されました。

 本成果は、独立行政法人科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業ICORP(国際共同型)研究「膜機構プロジェクト」(研究総括:楠見明弘、Satyajit Mayor)と、JST同事業さきがけ(個人型)研究「生命システムの動作原理と基盤技術」(領域総括:中西重忠)の支援を受け実現したもので、米科学誌『ジャーナル・オブ・セルバイオロジー』オンライン版に2011年2月7日付で公開されました。誌面では2011年2月11日号に掲載予定です(ともに米国東部時間)。

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文献情報

Extenal LinkFull characterization of GPCR monomer–dimer dynamic equilibrium by single molecule imaging

Rinshi S. Kasai, Kenichi G. N. Suzuki, Eric R. Prossnitz, Ikuko Koyama-Honda, Chieko Nakada, Takahiro K. Fujiwara, and Akihiro Kusumi

Journal of Cell Biology, 192, no. 3 | DOI:10.1083/jcb.201009128
Published February 7, 2011


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