イーサン・シバニア准教授ら、省エネ気体分離に役立つ高分子膜を開発 [Nat Comm]

2013年6月5日


イーサン・シバニアiCeMS客員准教授

 イーサン・シバニアiCeMS客員准教授(当時英ケンブリッジ大、2013年7月よりiCeMS主任研究者・准教授として着任予定)らの研究グループは、紫外線を用いた多孔性高分子膜の開発に成功しました。この研究成果により、従来の高分子膜と比べ、物質を選び分ける性能が劇的に向上しました。また、従来の高分子膜と比べ、100倍から1,000倍、気体分子などを通し易くしました。この成果は、分離処理が不可欠なエネルギーやガソリン生産などに伴う、環境への負担を軽減する技術の開発に寄与することが期待されます。

 今回、同研究チームは2ナノメートル以下の微細な穴を有する高分子材料(PIM)に着目しました。従来の高分子膜は密に詰まっているため気体を通しにくく、分離の過程で大量のエネルギーを要しました。PIMで作られた膜は気体分子を通しやすい一方で、材料の歪みやねじれなどによってPIM同士に大きな隙間が生じ、物質の選別が困難でした。この問題の解決策として、PIM表面に紫外線を照射し反応性オゾンを生成させ、膜表面の分子構造を破壊しました。その結果、膜表面には隙間のない均一なPIM膜が合成され、PIM特有の気体分子の通しやすさを保ちながらも、選択性を向上することに成功しました。

 この成果の可能性と今後の展望について、シバニア客員准教授は「高分子膜をさらに改良し、実用性の高いものを作りたいと考えている。ポリマー材料は気体分離以外にも、液体や蒸気分離、海水の淡水化、感知センサー、フォトリソグラフィ(集積回路用の表面加工)技術、エネルギー貯蔵などへの応用が効く。産業にも役立てることができるよう、さまざまな用途に合わせて薄さ、大きさ、材質などを調整することが次の課題」としています。

 論文はロンドン時間2013年5月28日、英オンライン科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に掲載されました。


文献情報

Extenal LinkPhoto-oxidative enhancement of polymeric molecular sieve membranes

Qilei Song1, Shuai Cao2, Paul Zavala-Rivera1, Li Ping Lu1, Wei Li2, Yan Ji1,3, Shaheen A. Al-Muhtaseb4, Anthony K. Cheetham2, Easan Sivaniah1*

Nat Commun. 4: 1918 | Published 28 May 2013 | DOI: 10.1038/ncomms2942

  1. Cavendish Laboratory, Department of Physics, University of Cambridge, Cambridge CB3 0HE, UK.
  2. EDepartment of Materials Science and Metallurgy, University of Cambridge, Cambridge CB2 3QZ, UK.
  3. Department of Chemistry, Tsinghua University, Beijing 100084, China.
  4. Department of Chemical Engineering, Qatar University, PO Box 2713, Doha, Qatar.