山田泰広教授、遺伝子の変異によらないがん化の仕組みを解明:iPS細胞技術の応用
2014年2月17日

山田 泰広 教授
大西紘太郎大学院生(京都大学CiRA/岐阜大学大学院)、蝉克憲研究員(京都大学CiRA/iCeMS)、山田泰広教授(京都大学CiRA/iCeMS/JSTきがけらの研究グループは、生体内で細胞を不十分な形で初期化すると、エピゲノムの状態が変化し、がんの形成を促すことを見出しました。この研究成果は2014年2月13日(米国時間)に米国科学誌「Cell」で公開されます。
ポイント
- マウス体内で初期化因子を一時的に働かせることで、がん形成のモデルを作製した。
- モデルマウスで発生させた腎臓がんは、腎芽腫と似た特徴を示した。
- モデルマウスで生じたがん細胞では、エピゲノムが変化していた。
- がん細胞を完全に初期化したところ、正常な腎細胞を形成した。
概要
iPS細胞とがん細胞は無限に増殖する能力を持つという点で、共通の性質を持っています。しかし、がんは遺伝子の変異が積み重なって生じるとされていますが、体細胞を初期化してiPS細胞が生まれる際には遺伝子が変異する必要はありません。そこで、マウスの体内で一時的に初期化因子(Oct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc)を働かせ、不十分な初期化を起こしたところ、DNAのメチル化パターン(エピゲノム)が大きく変化し、さまざまな組織で腫瘍が生じました。腎臓でこのようにして生じた腫瘍は、小児腎臓がんとして一般的な腎芽腫と組織学的・分子生物学的特徴が似ていました。この腫瘍の細胞を調べたところ、遺伝子の変異は見つからず、エピゲノムの状態が変化し、多能性幹細胞と似たパターンに変わっていることが明らかとなりました。また、腫瘍の細胞を初期化したiPS細胞からは正常な腎細胞が作られることを示しました。これらの結果から、エピゲノムの制御が、特定のタイプのがんで、腫瘍形成を促進する可能性が示されました。
また、今回の研究ではゲノムの変異を起こさずにエピゲノムの状態を制御する手法としてiPS細胞の技術を利用しました。このようにiPS細胞技術を利用することで、疾患研究に新しい観点をもたらすことが期待できます。
文献情報
Premature Termination of Reprogramming In Vivo Leads to Cancer Development through Altered Epigenetic Regulation
Kotaro Ohnishi1,2*, Katsunori Semi1,3*, Takuya Yamamoto1,3, Masahito Shimizu2, Akito Tanaka1, Kanae Mitsunaga1, Keisuke Okita1, Kenji Osafune1, Yuko Arioka1, Toshiyuki Maeda4, Hidenobu Soejima4 Hisataka Moriwaki 2, Shinya Yamanaka 1,3,5, Knut Woltjen 1,6 & Yasuhiro Yamada1,3,7
Cell | Published 13 February 2014 | DOI: http://dx.doi.org/10.1016/j.cell.2014.01.005
- Center for iPS Cell Research and Application (CiRA), Kyoto University, Kyoto 606-8507, Japan
- Department of Medicine, Gifu University Graduate School of Medicine, Gifu 501-1194, Japan
- Institute for Integrated Cell-Material Sciences (WPI-iCeMS), Kyoto University, Kyoto 606-8507, Japan
- Division of Molecular Genetics and Epigenetics, Department of Biomolecular Sciences, Faculty of Medicine, Saga University, Saga 849-8501, Japan
- Gladstone Institute of Cardiovascular Disease, San Francisco, CA 94158, USA
- Hakubi Center for Advanced Research, Kyoto University, Kyoto 606-8507, Japan
- PRESTO, Japan Science and Technology Agency, 4-1-8 Honcho Kawaguchi, Saitama, 332-0012, Japan