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若手研究者が語る論文のリアル

最近iCeMSから出版された論文の筆頭著者にスポットライトをあてたインタビュー形式の記事を掲載します。特に、論文に書かれていない、実際に研究を行ったヒトだけが分かる苦労、努力、ヒラメキ、喜びを、本人が語ります。

アルナウ・カルネ=サンチェスさん

バルセロナ科学技術研究所(スペイン)カタルーニャナノ科学・ナノ技術研究所 独立ポスドク研究員

※本研究を行なっていた当時は北川進グループ古川修平チームJSPS外国人特別研究員

アルナウ・カルネ=サンチェスさんは、超分子化学を用いて、新しい多孔性材料開発のための研究しています。iCeMS古川修平グループでの研究により、ナノ粒子またはジェルの形で存在する非晶質の(結晶性ではない)柔らかい配位高分子においてナノ空間を制御する新たな方法が発見されました。多孔性材料の加工をより容易にし、実用性を高める上で重要なステップです。

研究の成果・影響力・独自性という点から見た論文の重要性について教えてください。

多孔性材料は、ガスの貯蔵、触媒作用、分離など基本的な産業プロセスに欠かせない重要な存在です。例えば、多孔性材料によるCO2の吸収は、大気中に過剰に排出されているCO2の問題に対する最も現実的な戦略の一つとみなされています。その細孔は非常に小さく、高次元の制御を行えるかどうかが多孔性材料活用のカギとなっています。多孔性材料を作るときに細孔の開口具合を調整するためには、一般的には、多孔性結晶の穴がたくさん空いた骨組みのようなネットワーク構造に小さな分子を組み込む技術が利用されています。この方法で制作した材料は形の調整が難しく、材料として加工・利用する妨げとなります。

このことを解決するため、私たちはまず、穴の部分から作ってみてはどうかと考えました。合成時に、反応の最初の段階でナノ空間をもつ分子(ロジウム立方八面体錯体:RhMOP)を構成の基本単位として組み込むことで、ネットワーク要素によりナノ空間部分を保つことができます。これにより、結晶性や長距離秩序(構造の繰り返しパターン)にとらわれず、材料の最終形態や材料の形成方法についてより自由に考えることが可能となります。こうしたことから、私たちはRhMOPを構成要素として使用し、これを、配位重合において「ナノ空間基本単位(ポーラスモノマー)」と呼ぶようになりました。

この研究プロジェクトで一番興奮した瞬間、「やった!」と思った瞬間は?

分子が見事に重合し紫の透明なジェルの形になったのを初めて見た瞬間は、決して忘れられません。前の夜に想像していた反応が実際に予想通り発生し、反応の結果できた材料を見た時は、私の研究キャリアを振り返ってみてもとりわけ大きな満足を得た瞬間でした。

研究中に遭遇した最大の困難、あるいは問題について教えてください。それをどう克服しましたか?

実際に反応が生じたのを見て、私たちはそのメカニズムを知りたいと思いました。私たちのチームではこれまで主に結晶性の材料を扱ってきていて、非晶質材料の形成について解明を迫られるのは初めてだったので大きな課題でした。様々な評価技術を組み合わせて使用し、私たちの重合技術のカギが動力学的に閉じ込められた分子の形成にあることを証明する必要がありました。こうした分子の特性評価は、分子が時間的にあまり安定しておらず結晶化しにくいため困難を伴いました。可視・紫外分光法を組み合わせて使用し、光散乱によりポーラスモノマーの大きさの変化を確認してポーラスモノマーとのリンカーの配位を測定し、NMR(核磁気共鳴という装置)によりその構成を測定することで問題を解決しました。

今回の研究は、ご自分の総合的な研究の方向のターニングポイントになったと思いますか? もしそうなら、今回の研究によって、ご自身の研究の方向性はどのように変わりましたか?

この研究が私のキャリアのターニングポイントとなったのは間違いありません。プロジェクトを通じ、このような「ポーラスモノマー」について知る機会を得ました。この分子を使用することで、従来のような多孔性結晶質材料に伴う制約を気にせずに多孔性材料を自由に設計できることに気づきました。この自由度を活かし、有機重合体の優れた加工性と、ポーラスモノマーの制御された多孔性を組み合わせて、常に多孔性を保ち材料加工に使いやすい新たな軟材料を作成したいと考えています。新材料は科学的に有意義であるだけでなく、実用化に向けて超分子微細孔材料を開発する上で重要なステップになると思います。

現在の仕事について説明してください。今のポジションは? iCeMSで得た知識や経験がキャリアにもたらした影響は?

私は現在バルセロナのカタルーニャナノ科学・ナノ技術研究所(ICN2)でポスドク研究員を務めています。iCeMSで得た経験は、現在のポジションに就任するカギとなり、また研究者として独立を達成する上でも助けとなりました。

最後に、iCeMSで現在も研究を行っている若手研究者にメッセージをお願いします。

iCeMSには優れた研究環境があります。学際的な研究所で、様々な分野の研究者と意見を交わす機会に恵まれています。私はiCeMSで働く全ての人たちに、この利点を生かして他の研究分野のことも学ぶよう勧めています。リトリートと呼ばれるiCeMSの研究合宿は、異分野の研究に触れるとても良い機会です。

“Self-assembly of metal–organic polyhedra into supramolecular polymers with intrinsic microporosity”

Arnau Carné-Sánchez, Gavin A Craig, Patrick Larpent, Takashi Hirose, Masakazu Higuchi, Susumu Kitagawa, Kenji Matsuda, Kenji Urayama, Shuhei Furukawa. Nature Communications, 9, 2506 (2018)
https://doi.org/10.1038/s41467-018-04834-0