(iCeMS 今堀グループ※)
※論文発表時はiCeMS村上グループ

中辻 博貴

Hirotaka Nakatsuji

博士課程学生の中辻博貴さんは、太陽電池などに使われるような、光に反応して機能するナノ材料を生き物に応用する研究を行っています。今回の論文では、そういったナノ材料を用いて、私たちの神経細胞の中にある「痛み受信機」を光でコントロールできないかチャレンジしました。

今回の論文の中で、最も伝えたかったこと(達成できたこと、インパクト、ユニークな点など)を教えてください。

今回の研究の内容は、熱応答性イオンチャネルの光コントロールです。もともと僕の所属する研究室は太陽電池材料などに使われる光に応答する材料の研究をしているんですが、私たちはその材料を生物に応用して面白いことができないか?というのがこの研究の始まりです。

今回の研究の対象になったのがTRPV1というイオンチャネルです。TRPV1は、神経細胞等に存在していて43℃以上の温度や外部刺激に応答して開き、熱さや痛みを感じる役割を果たしています。そこで僕たちは光を吸収して熱を出す光線温熱ナノ粒子を使えばTRPV1を光でコントロールできるのではないかと考えました。イオンチャネルが自由にコントロールできれば神経細胞を制御して様々な細胞の機能の解明や痛み等の感覚のコントロールも可能かもしれません。

今回の論文では、光応答性材料として体を透過しやすい近赤外領域の光を吸収し、効率的に熱を発する金ナノロッドを採用しました。我々はドラッグデリバリーシステムの概念を利用して、金ナノロッドをTRPV1の存在する細胞膜上に効率的かつ安全に集積させることで、光照射によるTRPV1の活性化に成功しました。イオンチャネルを光でコントロールする方法としては、光に応答する外因性イオンチャネルを遺伝子導入で発現させるoptogeneticsという有効な方法がありますが、今回の方法は体の中に届きやすい近赤外光を用いており、遺伝子導入も必要ないので医療応用できる可能性があります。

今回の研究で、一番嬉しかった、もしくは感動した瞬間を教えてください。

一番喜んだ瞬間・・・、って言うのはやっぱりTRPV1が活性化した瞬間ですね。今回の実験では、TRPV1が活性化して細胞にCa2+イオンが流れ込むと蛍光を発する試薬を使っています。レーザーを当てた瞬間に細胞が蛍光で光ったときはよし!と思わずガッツポーズでした。ただこの実験では1細胞毎に次々レーザーを当てて測定するのですが、細胞毎の差もあって全て光ってくれるわけじゃないんです。だから、数分毎に一喜一憂しなければいけなくって・・・すごく疲れました。(笑)

今回の研究における最大のチャレンジ、困難は何でしたか?それをどうやって乗り越えましたか?

一番難しかったのは、温度の調整ですね。TRPV1は、43 °Cという微妙な温度で活性化するのですが温度が上がりすぎてしまうと細胞が死んでしまうことになります。そこで温度を精密に制御する必要があるのですがそれが難しい。極力制御しやすいやり方にするにはどうしたら良いのか?レーザーの強度?タイプ?ナノ粒子を処理する濃度?表面修飾か?などなどなど、いろんなことを試しました。今回の勝因は・・・・根気ですね。

今回の研究で学んだことは、あなたの研究人生、研究の方向性のターニングポイントになったと思いますか?もしそうならば、どの様に変わったのかを教えてください。

うーん。研究人生のターニングポイントというほど、研究人生を積んでいるわけじゃないです。ただ異分野融合研究を一から立ち上げて論文にまとめる大変さは改めて感じましたし、自分がまだまだであることは嫌というほど実感しました。うん、ターニングポイントじゃなくてスタートポイントだと思います。

現在のあなたのポジション、仕事環境を教えてください。iCeMSでの研究を通して得た、知識や経験などはキャリア形成にどのような影響を与えましたか?

今もiCeMSで博士課程学生として研究しています。今年中に博士論文がまとまるように頑張っているところです。iCeMSは、通常の研究室に比べて他の研究室の先輩方と交流したり、研究機器をお借りする機会がよくあるので様々な分野の考え方や知識を得ることが出来ました。キャリア形成は・・・これからですね。

※研究者の所属などは、取材当時のものです。

論文情報

Thermosensitive Ion Channel Activation in Single Neuronal Cells by Using Surface-Engineered Plasmonic Nanoparticles

Nakatsuji Hirotaka, Numata Tomohiro, Morone Nobuhiro, Kaneko Syuji, Mori Yasuo, Imahori Hiroshi, Murakami Tatsuya.

Angewandte Chemie International Edition, 54, 11725-11729 (2015),

Published: August 2015

DOI: 10.1002/anie.201505534.