特定研究員(ナマシバヤムグループ)

ユウ・ズタオ

Yu Zutao

 ユウさんは、アイセムスのナマシヴァヤム研究室の研究員です。病気の治療においてキーとなる遺伝子を狙った通りに制御することを目指して、小さな分子を使った遺伝子オン・オフ スイッチ技術について研究しており、将来的に、希少疾患の治療に用いられるような技術になれば、と考えています。今回の研究で、ユウさんは、重要な遺伝子調節因子をシステム内に含む、エピジェネティック修飾が可能な、新しいタイプの協働的なDNA結合システムを構築しました。この新しいシステムの複合分子「ePIP–HoGu」は、転写因子ペアの働きを模倣するだけではなく、特定のDNA配列にエピジェネティックな修飾因子を誘導します。

今回の論文の中で、最も伝えたかったことを教えてください。

 エピジェネティックな修飾因子を含んだ(多様な機能要素を持つスイスアーミーナイフのような)人工の転写因子は、転写プログラムを精密に読み取り、制御し、それにより、細胞を望みの種類に分化させます。しかし、一つの合成システムに複数の構成要素を盛り込むことは難しいため、複数のエピジェネティックな性質を持つ転写因子を正確に模倣するのは困難でした。更に、天然の転写因子の50~70%は対で働くため、生細胞内で天然の協働的機能をより近い形で模倣するには、この対で働く性質を取り込むことが重要です。

 小分子遺伝子スイッチをデザインするに当たり、主に2つのことに配慮しました。特定のDNA配列を見つけて結合する機能と、エピジェネティックな修飾機能です。本研究では、微調整を重ねて作成した複合分子システム「ePIP-HoGu」にを用いて、これら2つの課題に取り組みました。まず、Cucurbit[7]uril (CB7)というホスト分子により、協働的なDNA結合システムであるPIP-HoGuを強化しました。CB7はシステムを更に進化させるために不可欠な、非常に強いホストゲスト相互作用と機能特性を示します。PIP-HoGuとエピジェネティックな調節機構を組み合わせることにより、我々は、進化版システムであるePIP-HoGuがその認識部位に協働的に結合し、隣接するヌクレオソームを効率的にアセチル化することを証明しました。

今回の研究で、一番嬉しかった、もしくは感動した瞬間を教えてください。

 小さな分子1つでも、様々な機能を合わせ持ち、それらが協働的にはたらくような多機能な分子を作れたことです。そのアイデアを具体的に形にして、生物学的な実現可能性と有効性を確認することは、複数の異なるシステムを単に化学的に結合させるよりも大変でした。分析を簡略化するため、私はin vitro(生体外)実験で何度か最適化を行いました。そして、評価系の予備的な選定のあとで、なんとか自分のアイデアを裏付ける結果を得ることができました。一旦評価系が確立するとその後は、それを思いのままに使って効果を確認することができました。まさにそれは、「道が開けた瞬間」でした。

今回の研究における最大のチャレンジ、困難は何でしたか?それをどうやって乗り越えましたか?

 この研究は、順序立てて一歩一歩進めることが必要でした。この研究では、既に確立されていた2つのシステム、すなわち、2つの協働するPIPシステム(私が開発したPIP-HoGuとPIP-NaCo)と薬として働くPIP-Epi-drugを組み合わせる方法を探していました。この2つのシステムを単純に化学的に結合させるよりも、今回のアイデアを具体的に形にして、その生物学的な実現可能性や有効性を確認することの方が大変でした。そのためには、直接かつ明確に良い結果を伝えてくれる、精密な評価系が必要でした。同時に、この新しい評価系はまだ試作段階であったため、微妙な反応でも反映できる十分な感度を実現すること必要でした。我々はin vitro実験と細胞ベースの2つの評価系を試し、最終的に、先行研究で確立されていたin vitro評価系、すなわち「in vitroエピジェネティックアッセイ」で評価を継続することにしました。よりデータを改善するため、PIPのDNA認識配列の長さ、PIP間の距離、DNAリピート結合部位を最適化する等、この評価系にいくつかの改良を加えました。さらに、対照比較研究も行いました。

今回の研究で学んだことは、あなたの研究人生、研究の方向性のターニングポイントになったと思いますか?もしそうならば、どの様に変わったのかを教えてください。

 はい。今回の研究の成果は人工の小分子遺伝子スイッチの開発における礎になったと思います。以前の研究では、PIP-Epi-drugと協働性のあるPIPsシステムを別々に利用していました。一方、今回の研究では、これらの最も重要な2つの遺伝子調節要素を1つのシステムにまとめることにより、生細胞内での遺伝子発現を制御する天然のエピジェネティックコードをより近い形で模倣しました。今後は、我々の手法を最適化し、希少遺伝子疾患の細胞株に対して応用することについて重点的に研究したいと思います。その研究の成果は、今後人工の小分子遺伝子スイッチが実際使われるための重要なターニングポイントになると考えています。

現在のあなたのポジション、仕事環境を教えてください。iCeMSでの研究を通して得た、知識や経験などはキャリア形成にどのような影響を与えましたか?

 現在、このシステムのハンチントン病への応用研究を完成させようとしています。博士課程時代から4年間、私はiCeMS の活動に積極的に参加してきました。間違いなく、私はiCeMSの刺激的で国際的な雰囲気の中で急速に成長しました。iCeMS は国内外のたくさんの研究者を魅了しており、学術セミナー、iCeMS リトリート、公開イベント、国際海外プログラム等を頻繁に開催することにより、相互交流や連携を促進しています。私は他の人々と、科学について以前より自信をもって議論できるようになり、常に最新の考え方についていけるようになりました。iCeMSは常に若手研究者らの学術的な人脈の拡大を後押ししてくれます。昨年9月、私はiCeMSの国際海外プログラムの支援を受けて、1カ月間の共同研究と交流を目的として英国を訪問しました。この経験は、私の今後の研究生活を支え続けると思います。

※研究者の所属などは、取材当時のものです。

論文情報

A synthetic transcription factor pair mimic for precise recruitment of an epigenetic modifier to the targeted DNA locus

Z Yu, M Ai, S Samanta, F Hashiya, J Taniguchi, S Asamitsu, S Ikeda, K Hashiya, T Bando, G N Pandian, L D Isaacs, H Sugiyama

Chemical Communications, 56, 2296-2299 (2020)

Published: January 2019

DOI: 10.1039/C9CC09608F