中辻憲夫教授ら、インド国立生命科学研究センター(NCBS)及び幹細胞・再生医学研究所(inStem)を訪問

2010年9月8日

 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)の中辻憲夫拠点長らは、タタ基礎科学研究所インド国立生命科学研究センター(NCBS)との連携強化を図るため、NCBSおよびNCBS内にある幹細胞・再生医学研究所(inStem)を訪問しました。

 iCeMSからの使節団は、中辻拠点長のほか、楠見明弘教授、富田眞治事務部門長、Ziya Kalay iCeMS京都フェロー(若手主任研究者)、松田亮太郎特任准教授、Stephane Diring助教、Sravan Goparaju研究員、小玉裕之研究員の計8名で構成されました。

 今回の訪問の主な目的は、以下の3点です。

1. 相互にサテライトラボを設置する構想を始動(NCBS初の試み)
2. NCBSで開催した合同シンポジウムへの参加(8月25日)
3. 進行中の共同研究の更なる加速と、新たな連携活動の模索

 これら一連の連携活動により、インド・日本それぞれの優秀な人材(特に若手研究者)が行き交い、互恵的な発展が期待できることが、両機関にとっての大きなメリットの一つです。


NCBS外観(インド・バンガロール)

1. 相互にサテライトラボを設置する構想を始動(NCBS初の試み)

 NCBSは、国内外に六つあるiCeMSの連携機関の一つとして、iCeMS設立当初より協働を続けてきた強力なパートナーです。2010年4月28日にiCeMSと学術交流協定を締結し、更に実質的な協力関係が構築・強化されつつあります。この流れを加速し、また長期的な維持を可能にするため、相互にサテライトラボを設置する構想を始動させます。

 サテライトラボとは、研究機関Aが、研究機関Bにおける技術・ノウハウや研究設備、人脈を継続的に活用できるよう、Bが研究スペース・設備と滞在費を提供し、Aからの中長期的な研究者の受け入れを可能にする仕組みのことです。今回は、そのサテライトラボを双方に整備する計画で、北米・ヨーロッパ・日本等、既に10近くの研究機関と学術交流協定を締結しているNCBSとしても初めての試みです。

1-1. NCBS側でのiCeMSサテライト


VijayRaghavan所長
 

 現在のところ、1分子イメージングと幹細胞研究の二つのサテライトラボを、2011年秋頃に竣工予定のNCBS新棟内に設置予定です。

 このサテライト構想に期待を寄せるK. VijayRaghavan NCBS所長は「(二つのラボを併せて)最大1,000 m2の割り当てと、さしあたり向こう5年、年間約1億円規模の共同研究を検討している」としています。

<1分子イメージングラボ>

 世界最高の時間分解能での1分子イメージング装置の開発と実用化を行い、さらにNCBS研究者と共同で、生物系への応用を進める予定のサテライトです。NCBS側はSatyajit Mayor教授、Madan Rao教授、VijayRaghavan所長ら、iCeMS側は楠見教授、Kalayフェロー、藤原敬宏講師(iCeMSの内部組織メゾバイオ1分子イメジングセンター(CeMI)の運営責任者)らが現在の主な参画予定者で、順次拡大していく予定です。


楠見iCeMS教授
・CeMIセンター長
 

 既に進行中のNCBSとの共同研究「細胞膜におけるメゾスケール領域の3段階層構造と機能」について、楠見教授は「BSEやエイズウィルスなどの多くの感染病、アルツハイマー病など神経変性疾患の発病などにかかわり、多くの新薬開発のターゲットとしても極めて重要。本連携研究では、このメゾ階層構造の解明を本格的に進め、生命の基本単位としての細胞がどのようにして働くのかという基本的な疑問に答えるだけでなく、新規薬剤の発見・開発や臨床診断法の開発など医療分野に対して、大いに貢献することが期待できる」としています。

<幹細胞研究ラボ>

 主に中辻グループが中心となり、共同研究を推進します。同グループは日本で初めてヒトES細胞株を樹立して分配体制を確立し、また生殖細胞の発生分化等の研究で世界をリードしています。最近では、新薬開発に向けたES/iPS細胞によるアルツハイマー等の疾患モデル作成の研究で注目を浴びており、NCBS/inStemがインド幹細胞研究を牽引していくにあたり指導的立場となることが期待されます。

1-2. iCeMS側でのNCBSサテライト

 iCeMS本館やiCeMSコンプレックス2研究棟3号館(2010年11月に竣工予定)の共用実験室・オープンオフィスに受け入れ、学際融合研究を強力に推進するために整備された共用スペースの利点を最大限に活かす計画で、設置は2010年12月17日を予定しています。

 iCeMS側では中辻グループあるいはCeMIに参加する楠見グループ、Kalayグループらがまずは主な受け入れ先となりますが、それ以外のグループ・分野の研究者とも日常的に交流する機会が潤沢に存在します。


2. NCBSで開催した合同シンポジウムへの参加(8月25日)

 8月25日にNCBSで開催したiCeMSとNCBSの合同シンポジウムでは、開会にあたり土川正之 外務省在バンガロール出張駐在官事務所長が祝辞を述べられました。

 NCBS/inStemからは VijayRaghavan所長、Jyotsna Dhawan 教授、Maneesha S. Inamdar 教授、Sudhir Krishna 教授、Mitradas M. Panicker 教授、Ramaswamy Subramanian 教授、Mayor教授、Rao教授が、iCeMSからは中辻拠点長、Goparaju研究員、楠見教授、Kalayフェロー、松田特任准教授、Diring助教が、それぞれの研究内容について発表し、活発な質疑応答を通して、新たな共同研究の道を探りました。

 また、ビデオ会議システムによる同時中継で、日本にいたiCeMS研究者らもシンポジウムに遠隔参加し、質疑応答に加わりました。

 第2回のiCeMS-NCBS合同シンポジウムは、2010年12月17日に京都大学で開催する予定です。


シンポジウム会場(NCBS)の様子
 

研究発表をする中辻拠点長
 

NCBS新棟に設置予定のiCeMSサテライト
について説明するVijayRaghavan所長
 

シンポジウム後も意見交換を続ける
Diring助教(左)とRao教授(右)
 

ビデオ会議システムによる同時中継の様子
(iCeMS 本館2F セミナー室)
 

NCBSでのシンポジウムに
遠隔参加するiCeMSの研究者ら
 

3. 進行中の共同研究の更なる加速と、新たな連携活動の模索

 既に進行中の共同研究「細胞膜におけるメゾスケール領域の3段階層構造と機能」を更に加速するため、滞在中に綿密な協議と検証を行いました。

 加えて、より多角的な協働の実現を目指すため、それ以外の新たな共同研究の芽や連携活動の可能性についても模索しました。


中辻拠点長
 

 これまでの経緯と今後の展望について、中辻拠点長は「NCBSとは研究者同士での学術交流が長年行われており、4月には学術交流協定も締結した。今回の訪問で協定を相乗的な活動へと発展させ、組織レベルでiCeMS、NCBSそれぞれの強みを活かしていく。「持続可能な」協働のため、これまで以上に共同研究の幅を拡げ、インドの優秀な若手研究者の参加を促し、ひいては日本-インド国家間の連携強化に科学・技術の側面から寄与できれば」としています。

タタ基礎科学研究所について

 タタ基礎科学研究所(Tata Institute of Fundamental Research)は、インド政府核エネルギー省が所管する、物理学・化学・生物学・数学・コンピューターサイエンスにおける基礎研究を行う機関です。ムンバイ・プネー・バンガロールのメインキャンパスの他にも、インド各地に研究施設を有しています。

 ネイチャー世界版2010年3月11日号で発表された論文掲載ランキングによると、タタ基礎科学研究所はインドで1位となっており、インドの科学・技術をリードする一流の研究機関といえます。

タタ基礎科学研究所ウェブサイト

インド国立生命科学研究センター(NCBS)について

 タタ基礎科学研究所の一部であるインド国立生命科学研究センター(NCBS)は、インド南部の都市バンガロールに位置する最先端の基礎生物学の研究機関です。その研究領域は1分子から生態学、進化学まで多岐に亘ります。VijayRaghavan所長の強力なリーダーシップのもと急速な成長を続け、世界でも注目を浴びています。

 近年ではNCBS内に居を構える幹細胞・再生医学研究所(inStem)や、物理学・化学との融合生物学プログラムiBio等、意欲的なプロジェクトの推進にも力を入れています。

インド国立生命科学研究センター(NCBS)ウェブサイト

関連報道

・日刊工業新聞(2010年8月23日 16面)