京大iCeMS、カロリンスカ研究所などと世界幹細胞サミットを共催:41か国1,200人が参加

2012年12月10日

 京都大学物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)は3日から5日にかけ、米フロリダ州ウェスト・パーム・ビーチで開かれた世界幹細胞サミット(World Stem Cell Summit)を共催し、中辻憲夫iCeMS拠点長が開会挨拶とプレナリー(同じ時間帯に他の講演などが行われない全体会議)講演を行いました。他にもiCeMSは産官学シンポジウムの企画、ブースの出展、淺田孝iCeMS特任教授によるポスター賞の審査といった形で協力し、ノーベル生理学・医学賞を決める事でも知られるカロリンスカ研究所(スウェーデン)など他の共催機関とともにサミットの中心的役割を果たしました。

 サミットを主催した米非営利機関ジェネティクス・ポリシー・インスティテュート(GPI)バーナード・シーゲル代表は、iCeMSを共催機関の一つとして選んだ事について「iCeMSは世界でも有数の研究所として知られ、画期的な医学応用につながるような技術を生み出している。京都大学は日本の幹細胞研究を象徴する存在でもあり、今回iCeMSを共催機関として迎えられた事を誇りに思う」としています。

 iCeMSが企画した産官学シンポジウムでは、創薬や再生医療に向けた幹細胞研究・開発を進める日本の大学・国立研究所・企業の研究者や取締役などが講演しました。シンポジウム後の個別取材で、シーゲルGPI代表は「山中伸弥教授のノーベル賞の受賞もあり、世界が日本に注目している。日本が次に何を成し遂げるのかにも、強い関心が集まっている。そんな日本の幹細胞科学・技術の現状と展望を紹介したこのシンポジウムで、他の国にとっての一つのモデルを示せたのでは」との感想を述べました。

 中辻教授は、二年連続でプレナリー「世界トップレベル研究機関における再生医学の推進戦略」に登壇し、iCeMSの取り組みや、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の研究事業「ヒト幹細胞実用化に向けた評価基盤技術開発」のうち中辻教授を代表とするプロジェクトの成果を発表しました。本プレナリーの終わりに、今後の課題とそれを乗り越えるためのビジョンを聞かれた際、中辻教授は「幹細胞生物学者として、本来細胞は不安定なものである事を承知している。だからこそ、品質管理された多能性幹細胞を安定して大量に培養する技術を開発し、その成果ができるだけ多くの患者さんに低コストで届くようにしたい」との考えを示しました。

 iCeMSブースでは、通常の学会に比べてサミットは産業界からの参加者が多いことを考慮し、iCeMSで生まれた幹細胞技術の中でも応用向きのものを重点的に紹介しました。立ち寄る来場者との対話だけでなく、具体的な協働・連携の可能性を探るため、ブース内をビジネス・ミーティングの場としても活用しました。

 ポスター・セッションでは、iCeMS杉山弘グループのガネッシュ・ナマシバヤム研究員を含む約100名が発表し、来場者や審査員と議論を交わしました。淺田特任教授はポスター賞審査委員4人のうちの1人として選ばれ、審査に協力しました。

 「ステム・セル・アクション・アウォード」の授賞式では、再生医療にまつわる様々な課題を掘り下げ解説した報道番組を称えるメディア・インテグリティ賞や、幹細胞研究の意義や可能性を広く一般市民に伝えた活動を称えるパブリック・アウトリーチ&エデュケーション賞など、5つの部門で幹細胞研究の発展に顕著な貢献をした個人や組織が表彰されました。

 今年で8回目の開催となったサミットには例年、幹細胞科学・技術に関係する企業、研究者、臨床医、学生、政治家、患者団体、法律・倫理の専門家など約1,000人が参加します。今回は過去最多となる41か国から約1,200人が参加し、150を超える講演が行われました。各講演は「研究」「応用と規制」「産業化」「市民の推進運動と安全」に分類され、それぞれの観点から癌・糖尿病・HIV/AIDS・心臓病・脊髄損傷・ALS・パーキンソン病・目の病気などに対する取り組みの進捗や課題が報告されました。次回のサミットは2013年12月4日から6日にかけ、米カリフォルニア州サンディエゴで開催される予定です。


写真


会場となった米フロリダ州パーム・ビーチ会議場
 

サミット主催のGPIと共催機関の米マイアミ大学ミラー医学部学際幹細胞研究所、糖尿病研究所(米フロリダ州)、米シティ・オブ・ホープ病院ベックマン研究所、カロリンスカ研究所(スウェーデン)、国際応用再生医学センター(米カリフォルニア州)、京都大学iCeMSによる事前ミーティング
 

プレナリー会場で開会挨拶をする中辻教授(右)
 

プレナリー会場の様子:檀上は基調講演をする Extenal Linkジョージ・デイリー米ハーバード大学教授
 

デイリー教授(左)とiCeMSの近況について意見交換する中辻教授
 

講演者と来場者がテーブルを囲んで自由に対話できる「エキスパート・ランチョン」で、テレビ局の取材も同時に受ける中辻教授
 

iCeMSブースで海外企業とのビジネス・ミーティングに臨む淺田特任教授(中央)
 

iCeMSブースで来場者にiCeMSの紹介をする佐村美枝iCeMS研究企画セクションスタッフ(左)
 

産官学シンポジウムの趣旨と講演者について説明するシーゲルGPI代表(右奥)
 

産官学シンポジウムのフライヤーと講演者など(登壇順):上段左から中辻教授、淺田特任教授、Extenal Link田畑泰彦京都大学再生医科学研究所教授、Extenal Link赤松和土慶應義塾大学医学部講師、下段左から Extenal Link川端健二医薬基盤研究所(NIBIO)創薬基盤研究部幹細胞制御プロジェクトリーダー、横山周史 Extenal Link(株)リプロセル代表取締役社長、豊田雅哲 Extenal Link住友ベークライト(株)S-バイオ事業部研究部主任研究員、銀屋治巳 Extenal Linkジェネテイン(株)テクニカル・マーケティング部長、北川正成 Extenal Linkタカラバイオ(株)執行役員
 

ポスター・セッションで来場者に研究内容の説明をするナマシバヤム研究員(中央右)
 

プレナリー「世界トップレベル研究機関における再生医学の推進戦略」で座長からの質問に答える中辻教授(左から3番目)
 


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