中辻憲夫教授ら、ES細胞の実用化に向けたプロジェクトを始動:グローバル企業・大学・研究機関と連携し、大量培養・評価技術の開発へ

2011年5月27日
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は27日、研究事業「ヒト幹細胞産業応用促進基盤技術開発:ヒト幹細胞実用化に向けた評価基盤技術開発」の実施体制を発表しました。
同事業のうち、中辻憲夫京都大学物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)拠点長を代表とするプロジェクトでは、既存のヒトES細胞株を用いた(1)安定な培養・保存技術、(2)品質評価指標、(3)品質管理・安定供給技術の開発を進め、ヒトES細胞の再生医療などへの応用を可能にする大量培養システムと品質評価システムを、2015年度までに構築する事を目指します。
本プロジェクトの強みは、幹細胞の実用化に資する技術において有力な企業・大学・研究機関との産学連携です。ジェネテイン、島津製作所、住友ベークライト、タカラバイオ、日産化学工業、ニプロ、浜松ホトニクス、リプロセルといった企業に加え、慶應義塾(岡野栄之教授ら)、千葉大学(岩間厚志教授ら)、東京大学(中内啓光教授ら)、医薬基盤研究所(水口裕之チーフプロジェクトリーダーら)が参画しています。
中辻教授は「世界でも十分に通用する布陣。日本のものづくり力を結集し、その過程で論文の種やビジネスの種を生み、国内外での幹細胞の実用化を加速する事に貢献できれば」としています。
→ PDF版ニュースリリース(211KB)
前提
幹細胞の実用化には、多段階で多面的な、数多くの要素技術開発が必要となります。具体的には、以下のような技術開発が挙げられます。
- ES/iPS細胞株:安定な高品質株の評価選別
- iPS細胞株:体細胞初期化(リプログラミング)方法の改良による高品質安全性の向上
(2) 培養増殖技術
- 低分子化合物などを用いた高度の品質安定低コスト培地の開発
- 完全化学合成などによる安定品質低コスト培養基質の開発
(3) 大量培養と品質管理
- 従来の研究段階細胞数の千倍レベルの大量培養生産技術の開発
- 細胞株のゲノム変異(特に発癌遺伝子や癌抑制遺伝子の変異)の評価と品質管理
- 安定再現性良く汚染事故などリスク管理された増殖生産システム開発
(4) 分化誘導、目的細胞の選択と選別、大量生産供給
- 低分子化合物などによる高度の再現性と低コストの分化誘導方法の開発
- ES/iPS細胞から分化した組織幹細胞、前駆細胞、未成熟・成熟細胞の選別、目的に最適段階の選択
- 目的細胞種を高純度で回収選別するシステムの開発
- 腫瘍形成リスクをもつ未分化細胞や異常細胞の完全除去の保証システム開発
- 従来の研究段階細胞数の千倍レベルの分化細胞大量生産技術の開発
(5) 実用段階での利用技術
- 実用最終段階での調製細胞の品質評価と品質管理システムの開発
- 利用技術:細胞移植法や創薬アッセイ法など、各々の目的に最適化した多面的技術システム
本プロジェクトの内容
本プロジェクトでは、様々な細胞に分化する能力を有するヒト幹細胞の産業利用促進の重要な基盤となる、品質の管理されたヒトES細胞を安定的に大量供給する技術の開発を目的として、以下の研究開発を実施します。
- 安定、安全にヒトES細胞を維持するタンパク質成長因子など化学合成困難な高分子成分を代替できる低分子化合物による合成培地の開発
- 化学合成/高分子技術を用いたヒトES細胞の三次元大量培養を可能にするための培養基質および培養基材の開発
- 閉鎖系細胞培養容器と三次元培養方法を組み合わせたヒトES細胞の培養法の開発
- ヒトES細胞の状態を培養下で生きたまま検定するための、生細胞イメージング技術の開発
- ヒトES細胞の高効率凍結保存方法の開発
(2) ヒトES細胞株の品質評価指標の開発
- ヒトES細胞株の網羅的分子生物学的情報の取得と自動計測機器および計測試薬キットの開発と特性評価。国際幹細胞イニシアティブ(ISCI)等の国際的検討枠組みとの連携のもと、核型、ゲノム、エピゲノム、遺伝子発現、プロテオミクス、糖鎖、及びメタロボミクス解析等を実施する。
- ヒトES細胞株の効率的で再現性の良い分化誘導法を用いた分化能の評価。外胚葉系(神経系細胞)、中胚葉系(心筋細胞、血球系細胞)、内胚葉系(肝臓細胞など)への分化能を評価する。
- 自動化を取り入れた大量培養システムの開発
- 品質管理システムの開発と大量培養システムへの統合
- 自動化大量培養システムで製造された細胞を正確に供給するシステムの開発
- ヒトES細胞技術の標準化原案の策定
人材公募
こちらのページ(英語)をご覧下さい。
関連リンク
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- 毎日新聞(2011年5月29日 21面)
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