研究

2017年1月20日

腫瘍化の恐れのある未分化細胞を除去

上杉教授

 京都大学iCeMSの研究者らは、iPS細胞の中から腫瘍化の危険性のある細胞を取り除く作用のある、新しい化合物を開発しました。これにより再生医療がより安全なものになることが期待されます。

 ヒト多能性幹細胞(ヒトiPS細胞)は基礎研究や再生医療を大きく前進させる可能性を持っています。しかし、iPS細胞で治療するときに、必要なタイプの細胞への変化(分化)が完了していない、いわゆる未分化の細胞が残っていると、移植後に腫瘍を形成してしまいます。そのため、安全な治療を行うには、未分化の細胞を除去する必要があります。

 今回、京都大学iCeMSの上杉志成教授らの研究グループは、未分化のヒトiPS細胞だけを選択的に死滅させる化合物を開発しました。実験では、この化合物で細胞を72時間処理すると、未分化の細胞は完全に除去され、治療に必要な分化済みの細胞は、傷つくことなく残ることが確認されました。

 この化合物は、蛍光プローブ(目印を付けるためのマーカー分子)と抗がん剤を組み合わせた合体分子です。上杉教授の研究グループは以前、「KP-1」という、未分化のiPS細胞だけをマーキングできる蛍光プローブを開発しています。今回はこのKP-1と様々な抗がん剤の組み合わせを試すことで、未分化細胞の除去に効果的な化合物の発見に至りました。

 今後、この化合物自体の安全性について慎重に確認する必要がありますが、今回の成果は、未分化細胞だけを除去するための試薬が作成され、実用化されることが期待されています。

イラスト:分化済と未分化の細胞が混在するサンプル(左)にKP-1を加えると未分化細胞だけがマーキングされる(中央)。サンプルを今回発見の化合物で処理することで、未分化細胞は除去され、分化細胞だけが残る(右)。

本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の支援を受けて行われました。

文献情報

"A Synthetic Hybrid Molecule for the Selective Removal of Human Pluripotent Stem Cells from Cell Mixtures"



Di Mao, Shin Ando, Shin-ichi Sato, Ying Qin, Nao Hirata, Yousuke Katsuda, Eihachiro Kawase, Ting-Fang Kuo, Itsunari Minami, Yuji Shiba, Kazumitsu Ueda, Norio Nakatsuji, and Motonari Uesugi



Angewandte Chemie International Edition | Published on 9 January 2017

doi: 10.1002/anie.201610284

関連リンク

上杉 志成

五陵化薬株式会社:KP-1