研究

2020年6月19日

脳腫瘍の診断をサポートする高精度機械学習ツールの開発

新たな機械学習法により、98%程の精度でグリオーマを低グレード又は高グレードに分類(©高宮ミンディ/京都大学アイセムス - CC BY 4.0)

京都大学アイセムスのガネシュ・パンディアン・ナマシバヤム講師は、インドの研究グループらとともに、新たな機械学習法が97.54%の精度で一般的な脳腫瘍(グリオーマ)を低グレード又は高グレードに分類することを学術誌 IEEE Access にて報告しました。医師が個々の患者に最も効果的な治療法を選択するための支援ツールとして期待されます。

 グリオーマ(神経膠腫)は、神経細胞の支持体及び絶縁体、免疫など、神経系の様々な役割を担うグリア細胞(神経膠細胞)が侵される、脳腫瘍の一種です。治療法は腫瘍の攻撃性の程度により異なるため、個々の患者の腫瘍のグレードを的確に診断することが重要です。通常、放射線専門医は、MRIスキャンにより膨大な量のデータを取得し、3D画像を再構成し、診断に生かします。しかし、MRIスキャンから得られるデータの中には、腫瘍の形状、テクスチャ、画像強度の詳細など、肉眼では検出できないものも多く含まれます。人工知能(AI)のアルゴリズムは、こういったデータの抽出を支援することができ、ラジオミクスと呼ばれます。これまでにも、患者の診断や、適切な治療法を選択するために用いられてきましたが、その精度については改善が必要な状況です。

 ナマシバヤム講師は、インド工科大学ルーキー校の研究グループと共に、攻撃性や悪性度が低めの低グレードグリオーマと攻撃性や悪性度が高く、診断後の生存期間は比較的短い高グレードグリオーマを、97.54%の精度で判別する機械学習法の開発に成功しました。低グレードには、グレードIの毛様細胞性星状細胞腫やグレードIIの低グレードグリオーマが含まれます。高グレードのグリオーマには、グレードIIIの悪性神経膠腫 やグレードIVの多形性膠芽腫が含まれます。

 インド工科大学ルーキー校の研究チームは、高グレードグリオーマ210例と低グレードグリオーマ75例の患者のMRIスキャンデータを使用し、CGHF( Computational decision support system for Glioma classification using Hybrid radiomics and stationary wavelet-based Features )と呼ばれる解析方法を開発しました。彼らは、まず一部のMRIスキャンデータを学習用データとして使用し、特定のアルゴリズムを用いて特徴を抽出した後別の予測アルゴリズムでこのデータを処理することで、グリオーマを分類するように訓練しました。そして、得られたモデルを用いて残りのMRIスキャンデータを分類することで、その精度を評価しました。

 ナマシバヤム講師は、「この解析方法には目を見張るものがあります。私たちは、放射線専門医や腫瘍内科医などの医師による個々の患者にとっての最適な治療方針策定の支援が可能な自動の機械予測ソフトウェアモデルの開発に、AIが一役担うことを願っています。」とコメントしています。

 この成果は、2020年4月21日に学術誌 IEEE Access にて発表されました。

書誌情報

論文タイトル:“CGHF: A Computational Decision Support System for Glioma Classication Using Hybrid Radiomics- and Stationary Wavelet-Based Features”
著者:Rahul Kumar, Ankur Gupta, Harkirat Singh Arora, Ganesh Namasivayam Pandian, and Balasubramanian Raman
DOI: 10.1109/ACCESS.2020.2989193