研究

2020年12月28日

ABCA13の異常によるコレステロール輸送障害は統合失調症を引き起こす

コレステロール輸送タンパク質の一種であるABCA13遺伝子の異常が、統合失調症の一症状につながることを、マウスモデルで示しました。(©高宮ミンディ/京都大学アイセムス)

 京都大学アイセムス(物質-細胞統合システム拠点)の植田和光特定教授と農学研究科の木岡紀幸教授、大学院博士課程学生中塔充宏さんの研究グループは、神経細胞でコレステロールを運ぶABCA13の異常が統合失調症を引き起こすことを、細胞を用いた実験とモデルマウスを用いて明らかにしました。12月8日に米国学術誌 Journal of Biological Chemistry にて公開されました。

 ABCA13は、細胞膜を介して物質輸送を行うABCタンパク質の一種であり、ヒトがもつ48種のABCタンパク質のうちで最も大きい(5,058アミノ酸)ものです。これまで遺伝的多型の研究などから、精神疾患との関連が示唆されていましたが、直接的な関連やその機能に関しては、明らかになっていませんでした。

 今回、研究グループは、マウスのABCA13の遺伝子を単離し、ヒト培養細胞にて働かせ、その機能を解析しました。その結果、精神疾患との関連が示唆される変異を導入したABCA13は、細胞膜から小胞へとコレステロールを輸送する活性を、失ってしまうことが明らかになりました。

 さらに、ABCA13遺伝子が働かないように操作したノックアウトマウスを樹立しました。その生存期間や見た目は、通常のマウスとは変わりがなく、さらにその行動を解析しました。統合失調症の指標であるプレパルス・インヒビションについて、解析したところ、異常が見られました。通常のマウスは、大きな音を出す前に小さな音を聞かせると、それほど驚くことはありませんが、ABCA13遺伝子のノックアウトマウスでは、音に驚きやすいといった行動がみられました。

 さらに、研究グループは、マウスの脳の神経細胞におけるABCA13遺伝子の働きを解析し、この遺伝子が働かないと、神経細胞の小胞内にコレステロールが蓄積しないことを明らかにしました。

 今後、ABCA13遺伝子の働きをさらに解析することで、統合失調症、うつ病などの精神疾患に対する新しい治療戦略の開発につながることが期待されます。

詳しい研究成果について

ABCA13の異常によるコレステロール輸送障害は統合失調症を引き起こす(PDF)

書誌情報

論文タイトル:“ABCA13 dysfunction associated with psychiatric disorders causes impaired cholesterol trafficking”
(参考訳:ABCA13の異常によるコレステロール輸送の障害は精神疾患を引き起こす)
著者:Mitsuhiro Nakato, Naoko Shiranaga, Maiko Tomioka, Hitomi Watanabe, Junko Kurisu, Mineko Kengaku, Naoko Komura, Hiromune Ando, Yasuhisa Kimura, Noriyuki Kioka, and Kazumitsu Ueda
Journal of Biological Chemistry|DOI: 10.1074/jbc.RA120.015997