研究

2020年5月13日

加湿不要で水素イオンを高速伝導する配位高分子ガラスの合成に成功 ―車載用燃料電池の電解質材料として期待―

本研究のイメージイラスト(©高宮ミンディ/京都大学アイセムス - CC BY 4.0)

 京都大学アイセムス(物質-細胞統合システム拠点)の堀毛悟史准教授、小川知弘特定研究員らの研究グループは、株式会社デンソーの高橋一輝研究員、株式会社JEOL RESONANCEの西山裕介研究員らのグループと協力し、湿度ゼロ、120℃の環境において高い性能を示す電解質材料の合成に成功しました。

 酸素ガス(O2)と水素ガス(H2)を燃料とする燃料電池は、水のみを排出するため、クリーンなエネルギー源と言われ、その用途が広がっています。そのひとつが車であり、近年では燃料電池を搭載した車が国内外で発売されています。車載用の燃料電池のさらなる普及のためには、電池を構成する材料の高性能化が必要となります。例えば、電解質と呼ばれる材料では、(i)固体中で水素イオン(H+)のみを高速で輸送・伝導でき、(ii)柔らかく、電極と接合しやすいことが求められます。この性能が、湿度ゼロ、かつ120〜160℃の温度範囲で実現できれば、燃料電池の効率向上やプラチナなどの貴金属触媒の使用量の低減、車体のコンパクト化など多くのメリットを生み出すことができます。

 本研究では、電解質の課題解決のため、金属イオンと分子が交互に連結された「配位高分子ガラス」を合成し、電解質の課題解決に取り組みました。これまでの有機ポリマー膜の多くは、十分に水分を与えないと電解質として機能しませんでしたが、配位高分子ガラスは、加湿しなくても高い水素イオン伝導性能をもち、また、固体でありながら柔らかい材料です。今回は、水素イオンを多く持つリン酸(H3PO4)同士を金属イオン(Zn2+)でつなぎネットワーク化させ、さらに、結晶化を抑制するアンモニウムイオンを同時に入れることで、配位高分子ガラスを合成しました。放射光X線や固体核磁気共鳴(NMR)測定によって構造解析したところ、金属イオンとリン酸が大きなネットワークを作り、さらにそのネットワークがダイナミックに動くことによって、水素イオンのみを伝導する機構を持つことが確認できました。また、燃料電池を作成し、湿度ゼロ・120℃の環境において電気出力特性を評価したところ、電極面積1㎠の燃料電池セルにて最大出力密度150 mW/㎠の性能を示しました。

 今回合成した配位高分子ガラスは、ガラスを形成する金属イオンや、分子の種類をより幅広く検討することによって、燃料電池の性能向上、特に車載に求められる環境での用途展開につながることが期待されます。

 本研究成果は、JST研究成果最適展開支援プログラム A-STEP「イオン伝導性配位高分子を電解質に用いた燃料電池の研究開発」の一環として行われ、5月13日付けで英国王立化学会誌「Chemical Science(ケミカルサイエンス)」に公開され、同誌の注目度の高い論文として“ChemSci Pick of the week”に選ばれました。

詳しい研究成果について

加湿不要で水素イオンを高速伝導する配位高分子ガラスの合成に成功―車載用燃料電池の電解質材料として期待―(PDF)

書誌情報

論文タイトル:“Coordination polymer glass from a protic ionic liquid: proton conductivity and mechanical properties as an electrolyte”
(参考訳:水素イオン性イオン液体を基とした配位高分子ガラスによる水素イオン伝導性と機械的特性)
著者:小川知弘、高橋一輝、Sanjog S. Nagarkar、尾原幸治、You-lee Hong、西山裕介、堀毛悟史
DOI: 10.1039/D0SC01737J