研究

2020年11月20日

テロメアをリアルタイムで可視化する新たな手法の開発

DNAの両端に存在するテロメア部分に見られる塩基の繰り返し配列に、選択的に結合する化合物を開発し、蛍光化合物を付着させた。「SiR-TTet59B」と名付けられたこの蛍光マーカーにより、テロメアの働きを観察することができる。 (©高宮ミンディ/京都大学アイセムス)

 京都大学アイセムス(物質-細胞統合システム拠点)のガネシュ・パンディアン・ナマシヴァヤム(Ganesh Pandian Namasivayam)講師、杉山弘(すぎやま・ひろし)連携主任研究者(兼 理学研究科 教授)、河本佑介(かわもと・ゆうすけ)現 薬学研究科 助教、坪野友太朗(つぼの・ゆうたろう)理学研究科修士課程学生らの研究チームは、独自に開発した合成分子を用いて染色体末端に存在するテロメアをリアルタイムで可視化する新たな手法を開発しました。

 テロメアは染色体の末端に存在する特殊な構造体であり、染色体の安定維持に重要な役割を担っています。これまでの研究から、テロメアの長さやその機能異常は細胞の老化やがんなどの疾患と深く関わっていることが明らかとなっています。そのため、テロメアは多くの研究者からの注目を集めており、その機能の解明や病気の診断のためにテロメアを可視化する技術の開発が求められてきました。これまでに生きている細胞においてテロメアを可視化する方法として、細胞外から人工的に改変した遺伝子を導入する方法が用いられてきました。しかし、より簡単で幅広い応用が期待できる合成分子を用いた手法はほとんど報告がありませんでした。

 そこで本研究グループは今回、テロメアDNA配列に特異的に結合する分子と蛍光分子を組み合わせることで、生きた細胞での観察に適した新しいテロメア可視化蛍光分子「SiR-TTet59B」を開発しました。SiR-TTet59BはテロメアDNA配列に結合したときに蛍光がONに変わるという性質や、生体に影響を与えにくい長波長領域である近赤外波長の光を吸収・発するという特徴を持っています。このSiR-TTet59Bを用いることにより、ヒト生細胞においてテロメアをリアルタイムで特異的かつ効果的に可視化することに成功しました。また、異なる長さのテロメアを持つ二種類のがん細胞を用いてテロメアの可視化を行ったところ、テロメアの長さが長い方のがん細胞においてより強いテロメアの蛍光シグナルが観察されました。この結果から、蛍光シグナルの強さを測定することでSiR-TTet59Bがテロメアの長さの計測にも応用可能であることが示唆されました。

 一般的に本研究のような合成分子を用いる化学的手法は、人為的に改変した遺伝子導入などを行う生物学的な手法に比べてより簡便であり、複雑な操作が必要とされません。したがって、今回の研究において開発された手法は、テロメアに関する基礎的な研究や細胞の老化度合いの計測、がんなどの疾患診断などへの幅広い応用が期待されます。

 本成果は、9月21日に米科学誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン版で公開されました。

詳しい研究成果について

テロメアをリアルタイムで可視化する新たな手法の開発(PDF)

書誌情報

論文タイトル:“A Near-Infrared Fluorogenic Pyrrole-Imidazole Polyamide Probe for Live-Cell Imaging of Telomeres”
(参考訳:近赤外発蛍光性ピロール-イミダゾールポリアミドプローブを用いたテロメアの生細胞イメージング)
著者:Yutaro Tsubono, Yusuke Kawamoto, Takuya Hidaka, Ganesh N. Pandian, Kaori Hashiya, Toshikazu Bando, and Hiroshi Sugiyama
Journal of the American Chemical Society|DOI: 10.1021/jacs.0c04955