細胞の中で核が輸送される機構の解明 脳皮質の発生に重要
京都大学アイセムス(高等研究院 物質―細胞統合システム拠点:WPI-iCeMS)の見學美根子教授、ジョウチュウイン学術振興会特別研究員・生命科学研究科大学院生、呉攸博士(研究当時研究員)、藤原敬宏特定准教授、石舘文善客員教授らの研究グループは、Nesprin-2という分子により、脳皮質ニューロン内で核が輸送される機構を明らかにしました。この成果は8月8日にJournal of Cell Biology誌にオンライン公開され、11月号に掲載されます。
<概要>
我々ヒトの脳は千億近いニューロン(神経細胞)が整然と並んだ皮質という層構造を形成し、正確で効率の良い神経回路を作ります。皮質形成には、分裂層で誕生したニューロンが順序よく移動して正しく配置することが不可欠で、このときニューロン内の核が微小管上を輸送されることがわかっています。微小管は細胞内の物流を支えるレールで、+(プラス)端と-(マイナス)端があり、それぞれの方向へ動く2種のモータータンパク質が分子や細胞内小器官などの大小あらゆる積荷を輸送します。しかしこれらの反対方向へ動くモーターがどのように協調して積荷を細胞内の正確な場所に届けるのか、まだよく分かっていません。ニューロンの核は、微小管-端に動くモーターと結合して一方向へ動くと考えられてきましたが、そのメカニズムは不明でした。
今回、ジョウ研究員らは核とモーターを繋ぐ分子Nesprin-2を同定し、核輸送のメカニズムを明らかにしました。核膜分子Nesprin-2を欠損させたマウスではニューロンの核輸送が停滞し、脳皮質が正常に形成されないことを見出しました。これまで、核は-端モーターのみと結合して一方向へ動くと考えられてきましたが、Nesprin-2は-端モーターと+端モーターに結合して微小管上を両方向に動くことがわかりました。このとき2種のモーターは綱引きするように競い合うのではなく、単独で結合した時よりも積荷を動かす能力が高まっていて長い時間微小管上を往復し続けることがわかり、Nesprin-2が両方向モーターを協調させ、活性を高め合う効果を持つことが明らかになりました。しかし、これでは核は行きつ戻りつを繰り返して決まった方向へ輸送されないはずです。なぜ細胞内で核が前進できるのか、さらに調べた結果、ニューロンではレールとして固定されていると思われていた微小管自体が、核を乗せたまま前進していることを見出しました。
ニューロンの核輸送の異常は重篤な脳奇形のほか統合失調症との関連も指摘されています。微小管輸送の異常はその他多くの疾患の原因となりますが、本研究成果はそれらの疾患の病態の理解と治療法の開発に繋がります。また、微小管輸送を制御するナノロボットの開発など、様々な分野に発展する可能性を秘めています。
詳しい研究成果について
書誌情報
論文タイトル:Nesprin-2 coordinates opposing microtubule motors during nuclear migration in neurons