活動報告

2025年12月25日

【ノーベルウィーク】ノーベル化学賞講演が開催されました

ノーベル賞化学賞の受賞講演を行う北川教授

 12月8日、2025年ノーベル化学賞受賞者による受賞講演が、スウェーデンのストックホルム大学のキャンパス内で開催されました。講演には、アイセムスの北川進特別教授をはじめ、メルボルン大学のリチャード・ロブソン教授、カリフォルニア大学バークレー校のオマー・ヤギー教授が登壇し、それぞれの視点からMOF(多孔性金属錯体)研究の歩みと展望について語りました。

 講演は、ロブソン教授、北川教授、ヤギー教授の順で行われ、ロブソン教授は、配位高分子研究の初期から現在に至るまでの流れを振り返り、分子構造を設計するという発想が、MOF研究の基盤となってきたことを紹介しました。

 北川教授は講演の中で、まず学生時代の学びや研究人生の変遷に触れ、必ずしも当初は明確な応用を意識していなかった配位化合物の研究が、後になって多孔材料研究へと新たな展開を生んできた経験について語りました。一見すると役に立たないように思える研究や遠回りが、後に重要な発想へとつながることもあるとして、「無用の用」という言葉が印象的に用いられました。

 そうした研究の積み重ねの中から、北川教授は、結晶は静的な存在であるという従来の見方を問い直し、外部刺激に応答して構造が変化する動的な多孔材料へと研究を展開してきました。ガス分子を取り込む際に構造が開閉する材料の例を挙げながら、結晶でありながら柔軟に振る舞う「ソフトポーラスクリスタル(柔軟な多孔性結晶)」という概念に至った経緯が語られました。これらの材料は、安全なガス貯蔵や効率的な分離など、ガスを扱う上での新たな可能性を示すものとして紹介されました。

 また、続くヤギー教授の講演では、MOF研究を社会へとつなげてきた取り組みを紹介し、AIを活用した 展開などにも触れながら、基礎研究の成果が産業や実社会へと広がっている現状について述べました。

 講演の中では、3名が互いの研究に言及し合いながら、MOF研究が多様な試みと対話の積み重ねによって発展してきたことが示され、会場には終始、和やかな雰囲気が流れていました。

会場の様子
講演終了後、壇上で笑顔を見せる3人の受賞者
北川教授の門下の研究者たちも多数来場し、受賞の喜びをともに分かち合った