研究

2020年1月9日

体節形成には適切なシグナル伝達の遅れが大切、細胞どうしで遺伝子発現のタイミングをそろえるしくみ

脊椎動物の背骨などにみられる節目構造を作るために重要な細胞どうしの同期リズムを司るメカニズムの一端を解明。隣接する細胞へのシグナル伝達が適切に遅れることが細胞どうしの同期に重要であることを発見しました。(イラスト:高宮ミンディ)(CC BY 4.0)

 京都大学アイセムス連携PIの影山龍一郎教授(ウイルス・再生医科学研究所)、ウイルス・再生医科学研究所 吉岡久美子同教務補佐員、同松宮舞奈生命科学研究科博士課程学生(研究当時、現:欧州分子生物学研究所研究員)、アイセムス磯村彰宏特定助教らの研究グループは理化学研究所、東京大学の研究者と共同で、マウスの体節が形成される際にみられる細胞間で同期した遺伝子発現量の振動を生じさせるためには、細胞間シグナル伝達時間の適切な遅れが重要な役割を果たすことを明らかにしました。

脊椎動物では、受精卵から体が形づくられる発生の過程で、背骨・肋骨などの「節目」構造の元となる、体節と呼ばれる組織が周期的に形成されます。この体節形成の周期を制御するメカニズムは分節時計と呼ばれ、Hes7遺伝子の発現量がリズミカルに振動することがその中心的な役割を担っています。細胞内でのHes7遺伝子発現量の振動リズムが細胞間で同期することで、組織レベルのダイナミクスへつながります。この組織レベルでのHes7遺伝子発現量の同期が、規則正しい体節形成に重要であると考えられています。しかし、これまで、マウス胚において1細胞レベルでHes7遺伝子の振動を観察することが困難であり、細胞どうしの同期が生じる際の分子的なメカニズムは明らかにされていませんでした。 

 本研究では、新規の黄色蛍光タンパク質Achillesを用いたマウス胚のライブイメージングにより、Hes7遺伝子の発現量を1細胞レベルで計測し、個々の細胞での振動の様子を可視化することに成功しました。この系を用いて、糖転移酵素の一種であるLunatic fringe遺伝子が、細胞間のシグナルの伝達に適切な遅れを生み出し、これが同期を促進することを明らかにしました。この成果は、先天性脊柱側弯症などの遺伝疾患の発生メカニズムや、ホタルの集団発光やメトロノームの同期現象などといった自然界に普遍的にみられるリズム現象の同期メカニズムの理解につながると期待されます。

 本成果は、英国時間の2020年1月8日(日本時間:1月9日午前3時)に英国の国際学術誌「Nature」にオンライン掲載されました。

研究の概要図(イラスト:高宮ミンディ)(CC BY 4.0)

詳しい研究成果はこちら

“Coupling delay controls synchronized oscillation in the segmentation clock”

(参考訳:カップリングの時間遅れが分節時計における同期振動を制御する)

書誌情報

DOI: 10.1038/s41586-019-1882-z

著者:Kumiko Yoshioka-Kobayashi, Marina Matsumiya, Yusuke Niino, Akihiro Isomura, Hiroshi Kori, Atsushi Miyawaki, and Ryoichiro Kageyama