研究

2022年4月22日

柔軟なPCPにより爆発性ガスの運搬を 安全かつより効率的に

新たに開発された多孔性金属錯体ではゲートオープン圧を精密に制御でき、吸着したアセチレンガスを常圧で安全に取り出すことができます。(©高宮ミンディ/京都大学アイセムス)

京都大学アイセムス(物質―細胞統合システム拠点)の北川進拠点長・特別教授と大竹研一特定助教らの研究グループは、エア・リキードの研究グループと共同で、高純度アセチレンを安全かつ大量に貯蔵・運搬を可能にする多孔性材料の開発に成功しました。

アセチレンガスは、現代社会に欠かせない重要な化学原料の一つです。例えば、合成樹脂・ゴム・繊維の原料となります。また、金属の切断・圧接などの金属加工の際の燃料に使われています。一方で、アセチレンガスは爆発しやすい性質をもち、ガスシリンダーでの貯蔵や運搬が難しいことが知られています。アセチレンガスは、室温では200 kPa以上の圧力で圧縮すると、爆発する危険性が高くなります。そのため、工業用のアセチレンガスシリンダーでは、アセチレンの充填量を増やすために、アセチレンをアセトンなどの溶剤に1500 kPa以上の高圧で溶解して充填する方法が用いられます。しかし、この方法では、シリンダー自体が重くなることや、アセチレンの純度が低くなり、使用時に精製器が必要なこと、さらに溶解アセチレンから取り出して使用できるアセチレン量が溶存量の半分ほどしかなく、ロスが多いなど、数多くの問題点がありました。

 本研究で開発した多孔性材料は、有機分子と金属イオンからなるジャングルジム状のネットワークが相互に貫入した構造をもっています。また、アセチレンに応答して構造が変化する性質をもっており、アセチレンの吸着前にはその細孔が閉じているものの、アセチレンが閾値以上の圧力(ゲートオープン圧)になると細孔が開いてアセチレンを中に取り込むといった挙動を示します。本研究では、骨格に導入する官能基の割合を任意の比率で導入することによって、ゲートオープン圧の精密な制御を可能にすることに成功しました。この技術を用いることで、200 kPa未満の圧力で細孔が開いてアセチレンを大容量充填しつつ、室温において常圧(101 kPa)で多孔性材料の細孔が閉じてアセチレンを放出する材料の開発に成功し、実際にその性能の実証をすることができました。この多孔性材料をアセチレンガスシリンダーの充填剤に用いることで、低い圧力で高純度を保ちながら大容量充填できるため、ガスシリンダーを大幅に軽量化することが可能になります。また充填したアセチレンを、従来よりもロスを大幅に少なくして放出することが可能になります。そのため従来アセチレンを使用している産業分野への貢献のみならず、これまで溶剤の混入や危険性を懸念しアセチレンが使用されてこなかった分野への応用も考えられます。
 
 本研究で得られたゲートオープン圧の制御手法を転用することで、アセチレン以外の高圧ガスについても貯蔵・運搬を効率化する新しい素材の開発にも繋げることが期待できます。

本成果は英国時間 2022年4月21日午後4時(日本時間 22日午前0時)に、英国科学誌「 Nature Chemistry」オンライン版で公開されました。

詳しい研究成果について

柔軟なPCPにより爆発性ガスの運搬を 安全かつより効率的に

書籍情報

論文タイトル:Tunable acetylene sorption by flexible catenated metal–organic frameworks”(参考訳:構造柔軟性をもつ多孔性⾦属錯体によるアセチレン吸着の調整)
著者:Mickaele Bonneau, Christophe Lavenn, Jia-Jia Zheng, Alexandre Legrand, Tomofumi, Ogawa, Kunihisa Sugimoto, Francois-Xavier Coudert, Regis Reau, Shigeyoshi Sakaki, Ken-ichi, Otake & Susumu Kitagawa

Nature Chemistry | DOI: 10.1038/s41557-022-00928-x