研究

2022年5月19日

マイクロ流体デバイスの製造に革新をもたらす新手法

<クレジット> © Andrew H. Gibbons / Kyoto University iCeMS <キャプション> マイクロ流体デバイスに作られた新しい構造を探るイメージ画像。光を用いてポリマーの内部に作り出された多孔質構造をレンダリングしました。本研究では、この構造により液体の流れを制御することを実現した。

 マイクロ流体は、極めて微量の液体を操作することができる薄くて柔軟なデバイスを実現します。現在、研究施設全体で行う必要がある多くの検査を小型化できるテクノロジーとして、オーダメイド医療などの分野で大きな可能性を持っています。京都大学アイセムス(高等研究院 物質-細胞統合システム拠点)の研究グループは、マイクロ流体デバイスの製造に前例のない新たな方向から取り組み、世界最小のマイクロ流路を作成する革新的なプロセスの開発に成功しました。Easan Sivaniah(イーサン・シバニア)教授率いるアイセムスの研究チーム、PureosityのDetao Qin特定研究員が開発したこの新しいプロセスは、2022年5月19日(英国時間)に、 Nature Communicationsに発表されます。

 これまで、マイクロ流路を使ったデバイスを作るには、いくつもの部品から組み立てる必要があり、流路に欠陥が発生する可能性がありました。Pureosityチームが開発したプロセスは組み立てを必要としません。その代わり、光増感された一般的なポリマーとLED光源を用いて、水を運び、小さな生体分子同士を分離できる多孔質で高解像度なマイクロ流路を直接作製することができるのです。シバニア 教授は、「この新しいプロセスには大きな可能性があると考えています。オーダメイド医療検診だけでなく、小型化したセンサーや検出器など、マイクロ流体技術の全く新しいプラットフォームになると考えています。」と述べています。マイクロ流体デバイスは、DNAやタンパク質の分析にすでに使用されており、より幅広い用途が期待されています。将来的には、小さなパッチを着用するだけで医師が患者の健康状態をモニタリングでき、危険な症状には即座に対応することを可能にするようなデバイスができるのではないかともいわれています。今回の論文の共著者である伊藤真陽特定助教は、「私たちの技術をついにバイオメディカルに応用することができたことを大変嬉しく思っています。今回の開発は最初の第一歩ですが、インスリンやSARS-COV2殻タンパク質など、関連する生体分子が私たちの開発したマイクロ流路に適合したことは有望です。この技術の展開として診断装置への応用は将来性があると考えています。」と述べています。

 Pureosity チームの今回の開発は、以前(2019年)Nature誌に同グループが発表したプリント技術、Organized Microfibrillation(OM)のプロセスに基づいて開発されました。

詳しい研究成果について

マイクロ流体デバイスの製造に革新をもたらす新手法

書誌情報

論文タイトル:“Structural colour enhanced microfluidics”
著者:Detao Qin, Andrew H Gibbons, Masateru M Ito, Sangamithirai Subramanian Parimalam, Handong Jiang, H Enis Karahan, Behnam Ghalei, Daisuke Yamaguchi, Ganesh N Pandian & Easan Sivaniah

Nature Communications |DOI:10.1038/s41467-022-29956-4