研究

2022年6月18日

正電荷の酸化物クラスターの発見 酸触媒としての高い可能性

本研究で得られた酸化物クラスターは、従来の負(−)に帯電したものとは異なり、正(+)に帯電し、表面のプロトンが高い酸性を示すことから、新たな酸触媒としての開発が期待される。(©高宮ミンディ/京都大学アイセムス)

 京都大学アイセムス 陰山 洋 連携主任研究者(兼 工学研究科教授)、同 阿部 竜 連携主任研究者(兼 工学研究科教授)、同工学研究科 渡邉 雄貴 元大学院生、同理学研究科 金 賢得 助教、同 野田 泰斗 助教、東京大学大学院総合文化研究科 内田 さやか 准教授、東京工業大学フロンティア材料研究所 山本 隆文 准教授(元京都大学助教)は、米国 国立標準技術研究所、ロシア スコルコヴォ工科大学、ベルギー アントワープ大学との共同研究によって、正の電荷を帯びた酸化物クラスターをもつ新規化合物の合成に成功し、同物質が固体酸として優れた触媒になることを明らかにしました。これまで、酸化物クラスターの研究のほとんどは負の電荷をもつものに限られていたことから、本発見によって新たな機能材料としてのフロンティアが拓けました。

 本研究で得られた水素、アンチモン、酸素、ヨウ素から構成される新物質は、光機能材料の探索過程で偶然得られました。ポリ酸と呼ばれる遷移金属酸化物クラスターのほとんどは、負の電荷をもつのに対し、最先端の構造解析法である電子線トモグラフィーなどを用いて決定された本物質のクラスターは正に帯電されていることが特徴です。このクラスターの表面に存在するプロトン(H+)が弱く結合することによって同物質は酸(プロトン)触媒として高い活性を示すことを発見しました。これまで、未開拓であった正電荷クラスター化合物を基点とした構造、組成制御には大きな発展のスペースがあることから、SDGsの目標9(産業と技術革新の基盤をつくろう)の達成に資する触媒材料としての開発が期待されます。

 本研究成果は、特別推進研究「水素イオンセラミクス」、戦略的創造研究推進事業CREST「アニオン超空間を活かした無機化合物の創製と機能開拓」の一環として行われ、米国の科学誌Science Advances誌で米国時間6月17日に公開されました。

詳しい研究成果について

正電荷の酸化物クラスターの発見 酸触媒としての高い可能性

書誌情報

論文タイトル:"Polyoxocationic antimony oxide cluster with acidic protons"
著者:Yuki Watanabe, Kim Hyeon-Deuk, Takafumi Yamamoto, Masayoshi Yabuuchi, Olesia M. Karakulina, Yasuto Noda, Takuya Kurihara, I-Ya Chang, Masanobu Higashi, Osamu Tomita, Cedric Tassel, Daichi Kato, Jingxin Xia, Tatsuhiko Goto, Craig M. Brown, Yuto Shimoyama, Naoki Ogiwara, Joke Hadermann, Artem M. Abakumov, Sayaka Uchida, Ryu Abe, and Hiroshi Kageyama

Science Advances |DOI:10.1126/sciadv.abm5379