研究

2020年10月2日

自己集合性ワクチンアジュバントの発見

研究チームは、ウイルスに似た形状を形成する新しい種類のワクチン補助分子を発見した。(©高宮ミンディ/京都大学アイセムス - CC BY-NC-SA 4.0)

 京都大学アイセムス 上杉志成 連携主任研究者・副拠点長(兼 同大学化学研究所 教授)、同大学アイセムス ダニエル・パックウッド講師、東京大学医科学研究所 石井健 教授、大阪大学微生物病研究所・免疫学フロンティア研究センター 山崎晶 教授、京都大学化学研究所 倉田博基教授、時任宣博教授らの研究グループは、工業生産可能な新しいタイプのワクチンアジュバントを発見しました。本成果はドイツの化学専門誌Angewandte Chemie International Editionに9月26日に公開されました。

 臨床応用されている多くのワクチンにはアジュバントとよばれる補助剤が必要であり、アジュバントによってワクチンの作用が増強され持続します。しかし、臨床応用されているアジュバントの数は少ないという課題があります。新興ウイルスなどの新しい病原体に適したアジュバントを選択するには、多種のアジュバントを準備する必要があります。

 免疫応答やアジュバント活性には、物質の大きさが関与しています。上杉教授らは8,000個の化学物質の中から水中で自己集合して巨大化する化合物を選び、その中からワクチンアジュバント活性のある化合物を見いだしました。その化合物の類縁体を化学合成することによって強力なアジュバント活性をもつ化合物を発見し、コリカマイドと名付けました。

 コリカマイドは自己集合してウイルスに似た大きさと形状になり、免疫細胞に取り込まれ、Toll-like receptor 7というウイルス受容体に認識されます。いわば、ウイルスになりすまして免疫細胞を活性化するのです。マウスにインフルエンザワクチンと共に投与すると、インフルエンザワクチンの効果を増強し、マウスがインフルエンザに耐えうるようになりました。コリカマイドは化学構造が単純であり、工業化が可能です。今後、コリカマイドやその類縁体は新興ウイルスワクチンのアジュバントとして応用されると期待されます。

詳しい研究成果について

自己集合性ワクチンアジュバントの発見(PDF)

書誌情報

論文タイトル:“Discovery of Self-Assembling Small Molecules as Vaccine Adjuvants”
(参考訳:自己集合性ワクチンアジュバントの発見)
著者:Shuyu Jin, Hue Thi Vu, Kou Hioki, Naotaka Noda, Hiroki Yoshida, Toru Shimane, Shigenari Ishizuka, Ippei Takashima, Yoshiyuki Mizuhata, Kathleen Beverly Pe, Tetsuya Ogawa, Naoya Nishimura, Daniel Packwood, Norihiro Tokitoh, Hiroki Kurata, Sho Yamasaki, Ken J. Ishii, Motonari Uesugi
Angew. Chem. Int. Ed.|DOI: 10.1002/anie.202011604