熊本大学 工学部 物質生命化学科 助教
元iCeMS 上杉グループ 特定研究員(2016年3月まで)

勝田 陽介

Yousuke Katsuda

細胞内ではDNAからRNAが作られ、そのRNAの情報を基にタンパク質が作られています。今回、勝田さんと研究チームではRNAの特殊構造、RNA G-quadruplexのみに結合する化合物を化合物ライブラリーの中から見つけ出し、その化合物を使って細胞の中のRNA G-quadrupelxを探しだす論文を発表しました。

今回の論文の中で、最も伝えたかったこと(達成できたこと、インパクト、ユニークな点など)を教えてください。

 RNAはDNAからタンパク質が合成されるうえでの中継ぎの役割を果たしています。しかし近年、RNAは単なる中継ぎの役割のみならず、特殊な構造を形成することで、生体内で様々な機能を担っていることが明らかになってきました。つまりRNAが作る高次構造を正確に把握することは、生命現象を解き明かす重要な手掛かりになるのです。
 私たちが着目したRNA G-quadruplexもRNAからタンパク質が作られる「翻訳」という反応に大きな影響を及ぼしているという事が試験管レベルの実験から少しずつ明らかになっています。しかし細胞の中の“どの遺伝子”の“どの位置”にRNA G-quadruplexが存在するかは偶然見つかったような例を除いてほとんど明らかになっていませんでした。
 そこで私たちはRNA G-quadruplexに結合する化合物を化合物ライブラリーの中から探し出し、この化合物を魚釣りの“餌”のように扱うことで細胞の中のRNA G-quadruplexを見つけることが出来るのではないかと考えました。
 今回私たちが行った研究のユニークな点は、この“餌”を使って、実験的な手法でRNA G-quadruplexを見つけることに成功したという点だと思います。
 この技術を応用し、今後は細胞の中のmRNAを網羅的に調べることで今まで隠れていたRNA G-quadruplexが次々に見つかるのではないかと思っています。

今回の研究で、一番嬉しかった、もしくは感動した瞬間を教えてください。

 70,000種もある化合物ライブラリーの中からRNA G-quadruplexに結合する化合物(RGB-1)を見つけたときは非常に嬉しかったです。またRGB-1がRNA G-quadruplexに対して高い選択性があるとわかったときは非常に驚いたのと同時に、今後のこの研究の広がりを感じてとても興奮しました。

今回の研究における最大のチャレンジ、困難は何でしたか?それをどうやって乗り越えましたか?

 この仕事に関して特筆すべきような大きなチャレンジ・問題はありませんでした。ただ、全ての過程がチャレンジであり全ての過程に様々な問題が発生しました。そして、これら全ての事象は佐藤慎一准教授・上杉志成教授をはじめ、私の研究に関与してくださった多くの人とディスカッションすることによって解決したと思います。

今回の研究で学んだことは、あなたの研究人生、研究の方向性のターニングポイントになったと思いますか?もしそうならば、どの様に変わったのかを教えてください。

 自分がどのような分野の研究に興味があるのかという事に気が付くことが出来たという点では大きなターニングポイントになったのかもしれません。いずれにせよ、この研究がターニングポイントになるか否かは今後の研究の質によると思います。質の高い研究を続けて、あの時の仕事が自分にとってターニングポイントになったと言えるように今後も頑張りたいと思います。

現在のあなたのポジション、仕事環境を教えてください(アカデミック、産業、など何でも構いません)。iCeMSでの研究を通して得た、知識や経験などはキャリア形成にどのような影響を与えましたか?

 現在は熊本大学工学部物質生命化学科にて助教として働いています。現在の所属組織もiCeMSと同じようなコンセプトに基づいて研究を進めています。
 私がiCeMSで学んだ最も大きなことは、多くの人と話し・考え・実行する重要性です。まだ赴任して日も浅いですがiCeMSで経験した知見を所属組織でも広げていけたらと思っています。

最後に、若いiCeMS研究者にメッセージやアドバイスをお願いします。

 iCeMSにはいろいろな分野の専門家がいます。今回私の論文では、数年前まで、iCeMSの情報戦略室に所属されておられた方にもご協力いただいており、実際に共同著者として論文に名前も載っています。
 一見、自分の専門外であると思った人であっても、お互いの実験について深く話すことで思いもよらぬ共同研究が生まれたりもします。
 ぜひ、色々な研究者としっかりはなして研究の多様性・可能性を感じてみてください。

※研究者の所属などは、取材当時のものです。

論文情報

A Small Molecule That Represses Translation of G-Quadruplex-Containing mRNA

Yousuke Katsuda, Shin-ichi Sato, Lisa Asano, Yoshitaka Morimura, Tomoyuki Furuta, Hiroshi Sugiyama,Masaki Hagihara and Motonari Uesugi

Journal of the American Chemical Society, 138, 9037-9040 (2016)

Published: June 2016

DOI: 10.1021/jacs.6b04506