田中耕一郎グループ 博士課程学生 /イーサン・シバニア グループ オフィス・アシスタント

アンドリュー・ギボンズ

Andrew Gibbons

 アンドリュー・ギボンズさんは京都大学大学院理学研究科物理学専攻に大学院生として所属し、ポリマーフィルムの光学的性質を研究しています。最近、ギボンズさんは共同研究者とともに、心臓細胞が表面で拍動すると変色するポリマーフィルムを開発し、細胞をモニターするユニークな方法を生み出しました。

今回の論文の中で、最も伝えたかったことを教えてください。

 まず背景から説明します。薬剤開発の初期段階では、様々な可能性を秘めた数多くの薬剤が検証や試験の対象となります。この初期段階で最も重要なことの一つが、身体の様々な機能にとって有害となりうる化学物質を取り除くことです。そして、私たちの研究は、特に心臓にとって悪影響を与える物質を見つけ出すプロセスに関係しています。

 この過程の効率を高めるため、光学的構造を利用した基板を設計しました。それにより、広い表面積において心臓細胞の拍動数を観察できるようになるのです。私たちの基板は、「回析格子」という格子状のパターンを持つソフトポリマーです。細胞が収縮すると、パターンが変形し、それに伴い観察される色も変化します。この方法は細胞マーカーを必要とせず、細胞拍動の測定方法が侵襲的でないため、心臓細胞観察でもっとも一般的に使われる諸方法に対し、優位性があります。この装置を製作する方法も驚くほど単純で、わかりやすいものです。例えば、必要となるパーツの一つはただの1枚のCDです。このため、私たちの光学基板が、心臓細胞の拍動の強さや拍動数に候補薬剤が与える影響を観察に使われることを、私たちは望んでいます。

今回の研究で、一番嬉しかった、もしくは感動した瞬間を教えてください。

 いろいろ思い浮かびますね。難しかったことの一つなんですが、光学基板を作る方法について数多くのアイデアがあったものの、その多くが様々な理由でうまくいかなかった、ということがありました。道が拓けたのは、フィルムを作るために回析格子を初めて使ってみた後のことです。心臓細胞を初めて加えた時、すんなり上手く行き、基板表面への効果を顕微鏡で実に簡単に見ることができ「やった!」と思いました。

今回の研究における最大のチャレンジ、困難は何でしたか?それをどうやって乗り越えましたか?

 私たちの光学基板は、型を用いてポリマーゲルを回析格子パターン状に成形することで作られます。この方法を開発する際の問題の一つは、回析格子テンプレートがこの過程によって大きく損傷を受けてしまうことでした。この格子は、感度の高い光学的実験で使われるものであり、傷つきやすく高価なものです。そのため、私たちの方法は実現が困難となりました。しばらくこの問題について考えた後、高価な格子の代替物として、持っていたCDを使ってみることを決めました。もう使っていないCDだったし、やってみようじゃないか!と。期待以上にCDは上手くいき、再利用もできたのです。こうして突然、安価で、長持ちし、近所のお店で購入できる格子鋳型が手に入ったのです。

今回の研究で学んだことは、あなたの研究人生、研究の方向性のターニングポイントになったと思いますか?もしそうならば、どの様に変わったのかを教えてください。

 難しいですね。私の研究者としてのキャリアはまだ始まったばかりで、このプロジェクトの前は、自分自身の研究の方向性を考えていく段階でした。ですから、このプロジェクトは私の出発点であったと思っています。生体医工学の応用の研究をする意図は常にありましたが、これほど早くできるとは思っていませんでしたので、このプロジェクトに携わる機会に恵まれ、とても嬉しく思っています。最近の私の仕事には細胞培養は含まれておらず、光学ポリマーフィルムとその特性に焦点を当てています。修了後に私がどのような方向に向かうか、それはまだわかりません。さらに学際的な研究にも関心があります。

現在のあなたのポジション、仕事環境を教えてください。iCeMSでの研究を通して得た、知識や経験などはキャリア形成にどのような影響を与えましたか?

 私の研究キャリアは始まったばかり。まずは早く博士課程を修了するため、その準備を行っている段階です。iCeMSの環境は私にとって大きな支えとなりました。iCeMSの細胞培養施設や顕微鏡を利用できなければ、そして専門知識を備えた人々がいなければ、私のプロジェクトはもっと難しかったと思います。私はこれから、次のポジション見つけて獲得しなければなりません。多くの異なる分野の人々を一つにする研究機関や企業を優先的に探したいです。

※研究者の所属などは、取材当時のものです。

論文情報

Real-time visualization of cardiac cell beating behaviour on polymer diffraction gratings

Andrew Gibbons, Orsi Lang, Yokji Kojima, Masateru Ito, Koh Ono, Koichiro Tanaka, Easan Sivaniah,

RSC Advances

Published: November 2017

DOI: 10.1039/c7ra06515a