ガス混合物中から選択的にCO2を吸着するための多孔性材料を作成

同済大学環境科学工学部 教授
※本研究を行なっていた当時は特定研究員(北川グループ)

Yifan Gu

Yifan Gu

 現在、中国の同済大学に所属するYifan Guさんは、アイセムスの北川進グループに特定研究員として所属していた当時、主に多孔性材料を利用した環境機能性材料の開発に取り組んでいました。特に、高い分子認識能力を持って高選択的かつ高エネルギー効率でCO2 捕捉を可能にする新しいPCPの設計や合成を行いました。

今回の論文の中で、最も伝えたかったこと(達成できたこと、インパクト、ユニークな点など)を教えてください。

 CO2は温室効果ガスの一種ですが、様々な産業ガスにおいてその製造時の不純物として含まれます。CO2分子は他のガス分子の中でも、中間的なサイズや中程度な物理化学的特性を持っているため、様々なガス分子を含んだ混合ガスの中からCO2のみを選択的に認識する吸着剤をデザインすることはとても難しいことが知られています。

 多孔性配位高分子(PCP)は、金属イオンやクラスターと有機分子が配位結合によって繋がったできる多孔性材料です。金属イオンの種類と有機配位子のサイズや構造を細かに調整することで、戦略的に多種多様なPCPを合成することができます。PCPは多数の細孔を有していて、その細孔のサイズや、組成、化学的な性質を精密に設計することが可能です。また、この分野における最近の進歩により、特定の分子種に選択的に応答するような、動的な挙動を示すPCPも開発がされています。

 本研究では、CO2分子の選択的な分離が可能な、波状のチャネルフレームワークを特徴とするフレキシブルなPCPの開発を行いました。開発したPCPは、様々なガスのうちCO2のみを排他的に吸着する性質を示します。そのため、窒素、メタン、一酸化炭素、酸素、水素、アルゴン、エタン、エチレン、アセチレンを含むさまざまな分子から成る混合物からCO2のみを分離することができます。この排他的な吸着特性は、フレームワークの構造的柔軟性による熱力学的な吸着選択性と、チャネル部分における速度論的な拡散制御が複合的に働いて、発現するものです。こうした戦略的アプローチは、複雑な混合系における高効率な分離プロセスに特化した多孔性材料の設計開発のための重要な基礎的知見となると期待されます。

今回の研究で、一番嬉しかった、もしくは感動した瞬間を教えてください。

 この研究プロジェクトで最も感動的だった瞬間は、開発したPCPのユニークな吸着挙動を観察したときでした。私たちは、異なる温度で10種類の異なるガスに対して、設計したPCPの吸着特性を調べました。100回以上のガス吸着等温線測定を通して、最終的に、我々の設計したPCPが様々な類似のガス分子の中で二酸化炭素のみに対して細孔を開けて吸着することを確認することができました。この瞬間まで、このようなガスの選択性吸着が報告されたことはありませんでした。

今回の研究における最大のチャレンジ、困難は何でしたか?それをどうやって乗り越えましたか?

 最大の課題は、開発したPCPの結晶のサイズが小さいために、単結晶を用いての結晶構造解析が出来なかったことでした。この問題を解決するために、私たちはSPring-8にて、ガス雰囲気下でのinsitu粉末X線回折測定を行いました。高品質なデータを得るために、夜を徹して連続して多くの実験を実施しました。ガスを吸着した試料の構造解析において、北川グループの大竹研一特定拠点准教授の強力なサポートに大変感謝しております。おかげで、吸着メカニズムのさらなる研究のために結晶構造を最終的に得ることができました。

今回の研究で学んだことは、あなたの研究人生、研究の方向性のターニングポイントになったと思いますか?もしそうならば、どの様に変わったのかを教えてください。

 はい、これまでの材料開発研究では、ある簡単な環境条件のみを設定することが一般的でした。しかし、実際の応用シーンでは、複数の物質が共存することによって、材料の性能が阻害されることがよくあります。超微細な分子認識能力を持つ多孔性材料を設計することで、この課題にある程度対応することができます。この研究では、さまざまなガス混合系において、CO2の精密な認識を実現する材料設計とその機構の解明に成功しました。今後の私の研究では、実際の用途向けに、より「インテリジェント」なPCPの設計に取り組むことを目指しています。

現在のあなたのポジション、仕事環境を教えてください。iCeMSでの研究を通して得た、知識や経験などはキャリア形成にどのような影響を与えましたか?

 現在、私は中国の同済大学環境科学工学部の教授として勤務しています。アイセムスは世界をリードする研究機関です。まず、優れた教授たち、素晴らしい同僚、熟練した技術者、充実した設備を通じて、良い研究の進め方を学ぶことができました。次に、アイセムスの研究室運営方法に大いに触発されました。この経験は、私が独立した研究活動を開始し、自身の研究グループを築き始める際に非常に役立つと信じています。

最後に、iCeMSで現在も研究を行っている若手研究者(ポスドク、学生)にメッセージをお願いします。

 研究に対しては忍耐強くあることが大切です。着実に積み重ねることが、最終的な成功につながるでしょう。

※研究者の所属などは、取材当時のものです。

論文情報

Soft Corrugated Channel with Synergistic Exclusive Discrimination Gating for CO2 Recognition in Gas Mixture

Yifan Gu, Jia-Jia Zheng, Ken-ichi Otake, Shigeyoshi Sakaki, Hirotaka Ashitani, Yoshiki Kubota, Shogo Kawaguchi, Ming-Shui Yao, Ping Wang, Ying Wang, Fengting Li, and Susumu Kitagawa

Nature Communications

Published: July 2023

DOI: 10.1038/s41467-023-39470-w