研究

2021年3月18日

二酸化炭素を捕捉しアセチレンの精製を可能とする多孔性材料を開発

PCP(多孔性金属錯体)中に組み込んだアミノ酸基が方向を揃えて並ぶことで、アセチレンの混合ガス中から二酸化炭素を優先的に吸着し、アセチレンガスを精製することができる。(©高宮ミンディ/京都大学アイセムス)

 京都大学アイセムス(物質-細胞統合システム拠点)の北川進拠点長・特別教授らの研究グループは、中国同済大学の研究グループと共同で、アセチレンと二酸化炭素の混合ガスから、選択的に二酸化炭素を捕捉する材料の開発に成功しました。

 アセチレンガスは、合成樹脂、ゴム、繊維などの原料となることや、金属の切断・圧接などの金属加工の際の燃料に使われていることから、現代社会に欠かせない重要な化学原料の一つです。アセチレンは工業的には主に、石油に含まれる成分を熱分解(クラッキング)して得られる混合ガスから精製することで生産されています。この混合ガスにはアセチレンの他にも、様々な炭化水素ガスや二酸化炭素が含まれていて、その精製プロセスには莫大なエネルギーが消費されています。特に、アセチレンと二酸化炭素はその分子サイズや沸点などが同じくらいであり、性質が似ているため分離をすることが難しいガスの組み合わせとして知られています。これまでに知られている多くの吸着材では、アセチレンと二酸化炭素の混合ガスからはアセチレンが優先的に吸着されます。これはアセチレンが二酸化炭素よりも大きな静電相互作用を持ちやすいことによります。アセチレンの効率的な精製を行うために、アセチレン中に含まれる二酸化炭素を優先的に吸着するような“逆転吸着”を行う吸着剤の開発が望まれてきました。 

 本研究で開発した多孔性材料は、有機分子と金属イオンからなるジャングルジム状のネットワーク構造でできており、内部にナノサイズの微小な筒状の穴(細孔)を無数に持っています。今回、この筒状の細孔中にアミノ酸基を細孔中に規則的に配置することで、アセチレンと二酸化炭素の混合ガスから優先的に二酸化炭素を取り込む「逆転吸着」を示すことが分かりました。理論計算を用いて詳細にこの機構を詳細に解析したところ、導入したアミノ酸基が二酸化炭素とは親和的に相互作用する一方で、アセチレンの細孔中への導入が抑えられる原因を突き止めることに成功しました。実際に、50%の純度のアセチレンガス・二酸化炭素混合ガスを、今回開発した多孔性材料を詰めたカラムに通すだけで、99.5%以上のアセチレンに精製できることも実証できました。

 これまで謎が多かったアセチレン/二酸化炭素の逆転吸着現象のメカニズムおよびその設計指針が解明されたことで、同様の性質を示す様々な素材の開発に繋がります。アセチレンを始めとする様々なガスの分離や、精製と言った難しい問題を解決する新素材への応用が期待されます。 

 本成果は米国東部時間 2021 年 2 月 17 日午後1時(日本時間 17 日午後9時)に、ドイツ科学誌「Angewandte Chemie International Edition」オンライン版で公開されました。 

詳しい研究成果について

二酸化炭素を捕捉しアセチレンの精製を可能とする多孔性材料を開発

書誌情報

論文タイトル:“Host-guest Interaction Modulation in Porous Coordination Polymers for Inverse Selective CO2/C2H2 Separation”
(参考訳:多孔性金属錯体における二酸化炭素/アセチレンの逆転吸着分離を引き起こすための、ホストーゲスト相互作用の調整法)
著者:Yifan Gu, Jia-Jia Zheng, Ken-ichi Otake, Mohana Shivanna, Shigeyoshi Sakaki, Haruka Yoshino, Masaaki Ohba, Shogo Kawaguchi, Ying Wang, Fengting Li, Susumu Kitagawa

Angewandte Chemie International Edition|DOI: 10.1002/anie.202016673