相転移する多孔性膜材料の開発 〜二酸化炭素を選択的に透過させる膜の作成に成功〜
京都大学アイセムス(高等研究院 物質―細胞統合システム拠点:WPI-iCeMS)のワン ザオミン 博士研究員、古川修平 教授らの研究グループは、国立台湾大学のハン ポーチュン博士課程学生、チュアン チアフイ博士課程学生、ウー ケビン教授、カン ドンイェン教授と協力して、温度に応じて相転移する新しい多孔性膜材料の開発に成功しました。この材料を用いてガス分離膜を作成し、二酸化炭素を選択的に透過させることを確認しました。
ガス分離技術はエネルギー効率向上と環境保護の観点から重要であり、例えば水素と二酸化炭素の分離は次世代エネルギーや炭素排出削減に不可欠です。従来の多孔性材料を用いた分離膜は透過性と選択性の両立が難しく、加工性や柔軟性に課題があるため、効率的な分離と再利用を実現する新素材の開発が求められています。
本研究では、従来の膜素材にはない「相転移」の概念を導入し、温度に応じて三相の状態を切り替えられる膜素材を開発しました。具体的には、金属錯体多面体(MOP)という微細なナノ空間をもつ分子の周りに、12本の柔軟なポリエチレングリコール(PEG)鎖を化学的に固定しました。このMOP膜は、温度変化により「液体」「ガラス」「結晶」の三相に変換できる点が最大の特徴です。高温状態では分子が自由に動く液体相となり、温度を下げて急冷するとガラス相、ゆっくりと温度を下げるとPEG分子が配列した結晶相を示しました。これにより膜の状態を制御し、ガスの透過性や選択性を変化させることが可能になりました。特に、液体相では、分子サイズが小さい水素よりも、大きい二酸化炭素をより多く透過させるという新しい分離機能を有することを明らかにしました。
この技術は、MOP中の金属イオンや構造を変化させることで、二酸化炭素と水素分離のみならず産業プロセスで必要とされる幅広いガスに対応する新たな膜材料が開発されると期待されます。
本成果は2024年11月13日19時(日本時間)に、英国出版社Springer Natureの雑誌である「Nature Communications」オンライン版で公開されました。
詳しい研究成果について
書誌情報
論文タイトル:“Phase-transformable metal-organic polyhedra for membrane processing and switchable gas separation”
著者:Po-Chun Han, Chia-Hui Chuang, Shang-Wei Lin, Xiangmei Xiang, Zaoming Wang, Mako Kuzumoto, Shun Tokuda, Tomoki Tateishi, Alexandre Legrand, Min Ying Tsang, Hsiao-Ching Yang, Kevin C.-W. Wu, Kenji Urayama, Dun-Yen Kang, Shuhei Furukawa