単色X線とナノ粒子による新規放射線がん治療に向けて オージェ電子発見から100 年、新境地を開く
京都大学アイセムスの玉野井冬彦(たまのい・ふゆひこ)特定教授、松本光太郎(まつもと・こうたろう)特定助教、量子科学技術研究開発機構 関西光科学研究所の齋藤寛之(さいとう・ひろゆき)上席研究員らのグループは、単一エネルギーをもつX 線すなわち単色X 線を、ガドリニウム を多孔性シリカナノ粒子により取り込ませたがんの塊に照射することで、その塊がばらばらになり消滅することを明らかにしました。
現在、放射線治療はがん治療の主要な方法として広く使われていますが、既存のX 線は、幅広 い波長が含まれているため、皮膚表面でX 線が吸収されてしまい、がん組織に届きにくいという 課題がありました。研究グループは、1925 年にピエール・オージェらが報告した原理を利 用し、単色X 線を、がん細胞に取り込ませたガドリニウムに照射することでオージェ電子 が放出される原理を使い、がん細胞を死滅させることを目指しました。
ガドリニウムは、研究グループが独自に開発した多孔性シリカナノ粒子を用いてがん細 胞の中に送り込み、単色X 線は、大型放射光施設(SPring-8)の量研専用ビームライン BL14B1 において照射しました。結果、卵巣がんの塊に対して、ガドリニウムからオージェ 電子を放出させるのに最も適した50.25 keV のX 線を照射した場合に、効果的にがん細胞を 攻撃できることが明らかになりました。多孔性シリカナノ粒子の働きにより、ガドリニウ ムをがん細胞の細胞核近傍に局在させたことが、成功の鍵となりました。ピエール・オー ジェらの発表から100 年の時を経て、新たな治療法開発における一歩になります。
本成果は英国時間9月30日午前10 時(日本時間 午後6 時)に、英科学誌「Scientific Reports(サイエンティフィック・リポーツ)」オンライン版に掲載されました。
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書籍情報
著者:Kotaro Matsumoto, Hiroyuki Saitoh, Tan Le Hoang Doan, Ayumi Shiro, Keigo Nakai, Aoi Komatsu, Masahiko Tsujimoto, Ryo Yasuda, Tetsuya Kawachi, Toshiki Tajima, Fuyuhiko Tamanoi