研究

2021年10月22日

ポリマー半導体の高性能化に向けた新たな分子デザイン手法を開発 ―ポリマー主鎖のπ電子を非局在化して半導体性能を20倍以上に向上―

ポリマー半導体の化学構造を少し組み替えるだけで、ポリマー主鎖内の電荷輸送性の向上に成功し、結果としてポリマー半導体の電荷移動度が著しく向上した。(©高宮ミンディ/京都大学アイセムス)

 広島大学大学院先進理工系科学研究科応用化学プログラムの尾坂格 教授、三木江翼 助教、京都大学アイセムスの深澤愛子 教授、名古屋大学ITbMの山口茂弘 教授、東京大学大学院新領域創成科学研究科の石井宏幸 特任研究員、物質・材料研究機構の角谷正友 主席研究員、高輝度光科学研究センターの小金澤智之 研究員らの共同研究チームは、ポリマー半導体の化学構造を少し組み替えるだけで、電荷となるπ電子が主鎖に沿って高度に非局在化し、半導体性能の一つである電荷移動度が20倍以上向上することを発見しました。
 
 ポリマー半導体は、印刷プロセスで簡便に薄膜化できる半導体であり、有機トランジスタや有機薄膜太陽電池などの次世代のプリンテッドデバイスへの応用が期待されています。しかし、これらデバイスの性能を左右する電荷移動度は、シリコン半導体などに比べて著しく低い値を示します。そのため、高い電荷移動度を示すポリマー半導体の開発が強く求められています。

 ポリマー半導体には、ポリマー主鎖に沿った「主鎖内」とポリマー主鎖同士の重なりを介した「主鎖間」の2つの電荷輸送パスがあります。従来は、律速である「主鎖間」の電荷輸送性を改善することが材料開発の指針でしたが、研究の進展とともに「主鎖間」の電荷輸送性の改善だけでは電荷移動度を向上させることは難しくなっていました。共同研究チームは今回、以前に開発していたポリマー半導体の化学構造を少し組み替えてやることで、電荷となるπ電子が主鎖に沿って高度に非局在化し、これまで着目されていなかった「主鎖内」の電荷輸送性が高まることを発見しました。その結果、ポリマー半導体の電荷移動度を著しく向上させることに成功しました。

 本研究で見出した「主鎖内」の電荷輸送性を高める新たな分子デザイン手法を応用することで、さらに電荷移動度の高いポリマー半導体の開発が期待できます。

 本研究成果は、2021年10月22日13時(日本時間)にアメリカ化学会の科学誌「Chemistry of Materials」にオンライン掲載されました。

詳しい研究成果について

ポリマー半導体の高性能化に向けた新たな分子デザイン手法を開発 ―ポリマー主鎖のπ電子を非局在化して半導体性能を20倍以上に向上―

書誌情報

論文タイトル:“Extended π-Electron Delocalization in Quinoid-Based Conjugated Polymers Boosts Intrachain Charge Carrier Transport”
著者:Tsubasa Mikie, Masahiro Hayakawa, Kenta Okamoto, Keitaro Iguchi, Shuhei Yashiro, Tomoyuki Koganezawa, Masatomo Sumiya, Hiroyuki Ishii, Shigehiro Yamaguchi, Aiko Fukazawa, Itaru Osaka

Chemistry of Materials|DOI: 10.1021/acs.chemmater.1c02072