研究

2022年4月25日

グレビーシマウマiPS細胞の樹立に成功

絶滅危惧種であるグレビーシマウマの皮膚から培養した繊維芽細胞にヒトなどと同様の初期化因子を導入することでiPS細胞を作成し、それ等の因子が動物種間で進化的に保存されていることを明らかにしました。(©高宮ミンディ/京都大学アイセムス)

 京都大学アイセムス(物質-細胞統合システム拠点)の亀井謙一郎(かめい・けんいちろう)准教授、同大学iPS細胞研究所の沖田圭介(おきた・けいすけ)講師、京都市動物園の伊藤英之(いとう・ひでゆき)研究教育係長、京都大学野生動物研究センターの村山美穂(むらやま・みほ)教授、遠藤良典(えんどう・よしのり)特任研究員らの研究グループは、絶滅危惧種に指定されているグレビーシマウマからiPS細胞を作成することに成功しました。この研究成果は、グレビーシマウマの種の保全や、哺乳類多能性幹細胞の理解に貢献することが期待されます。

 iPS細胞作製技術の開発により、絶滅危惧種も含む多くの野生動物の生理学的・病理学的研究や「種の保全」への取り組みも新しい局面を迎えることとなりました。iPS細胞を用いることで、動物個体を用いることなく、動物特有の生理現象、病気になるメカニズム、進化や環境変化による適応過程などの知見が得られると期待されています。しかし、iPS細胞は、動物種によって異なる性質を持つことがわかってきました。研究や保全に向けた実用化のためには、様々な動物種のiPS細胞を理解する必要があります。

 今回の研究では、グレビーシマウマからiPS細胞の作成に成功しました。グレビーシマウマの皮膚から培養した繊維芽細胞に、ヒトなどと同様の方法で初期化因子を導入し、多能性幹細胞様コロニーの形成を確認しました。さらに、研究グループは、RNA-seqを用いて遺伝子発現を網羅的に解析することで、ヒトやマウスの多能性幹細胞に見られる遺伝子が、グレビーシマウマiPS細胞においても発現していることを発見し、これらの遺伝子の重要性が、動物種の間で進化的に保存されていることが示されました。

 グレビーシマウマiPS細胞を利用することで、将来的には、体細胞を用いた病気の研究や、生殖細胞へ分化誘導することで繁殖への貢献が期待されます。また、新たな動物種の知見を得ることで、種の違いや進化の意義づけを行い、我々ヒトを含めた哺乳類多能性幹細胞の理解に役立つことが期待されます。

 本成果は、2022年3月22日に米科学誌「Stem Cells and Development」にオンラインで公開されました。

詳しい研究成果について

グレビーシマウマiPS細胞の樹立に成功

書誌情報

論文タイトル:“Generation and gene expression profiles of Grevy's zebra iPSCs”(参考訳:グレビーシマウマiPS細胞株の樹立と遺伝子発現解析)
著者:Yoshinori Endo, Ken-ichiro Kamei, Kouichi Hasegawa, Keisuke Okita, Hideyuki Ito, Shiho Terada, Miho Inoue-Murayama

Stem Cells and Development | DOI: 10.1089/scd.2021.0253