PCPは、はじめから「ソフト」だった! 分子が自身より小さな空間を通り抜ける謎を解明
京都大学アイセムス(高等研究院 物質―細胞統合システム拠点:WPI-iCeMS)の坂本裕俊 特定講師、大竹研一 特定拠点准教授、北川進 特別教授の研究グループは、歴史上はじめてガス吸着能を示した多孔性配位高分子(Porous Coordination Polymer: PCP、またはMetal-Organic Framework: MOFと呼ばれています)について、そのガス吸着が実はPCPの局所構造の「柔らかさ」に基づくメカニズムによって進行していることを発見しました。
1997年、北川教授は、PCPが従来の多孔性材料に匹敵する量のガス分子を吸着できることを世界ではじめて示しました。しかし、このPCPを120度で処理した脱溶媒結晶の細孔の入り口はガス分子よりも小さく、ガス分子がこれを通り抜けて吸着が進行するメカニズムは、当時の知識と技術では明らかにできていませんでした。その後、北川教授は「ソフト多孔性結晶」「吸着状態その場測定」など、PCP研究に革新をもたらす概念・技術を確立しました。とくに近年、分子サイズと同等の細孔に柔軟部位を導入することで、分子の細孔内拡散を制御できることを示しました。これらの知見が成熟してきたことを踏まえて、あらためて「はじめてのPCP」のガス吸着現象の謎にアプローチしました。
研究グループは、このPCPの二酸化炭素(CO2)吸着前後の構造を詳細に観察し、以下を明らかにしました:(1) CO2分子は、PCP細孔部位の局所的な変形により、小さな窓枠を押し広げるように通り抜けて吸着する(「スクイーズ吸着」と命名)。(2) さらに高圧のCO2にさらすと、骨格全体の構造変化(相転移)が起こり、より多くの二酸化炭素を吸着する。
これらの観察により、「はじめてのPCP」が、実は「はじめてのソフトPCP」でもあることがわかりました。この発見は、近年急速に発展し、一大分野となったガス吸着PCPおよびソフトPCP研究の源流を再定義する重要な成果です。
本成果は2024年9月2日に、Nature Portfolioのオープンアクセスジャーナル「Communications Materials」のオンライン版で公開されました。
詳しい研究成果について
書誌情報
論文タイトル:“Progressive gas adsorption squeezing through the narrow channel of a soft porous crystal of [Co2(4,4’-bipyridine)3(NO3)4]”
著者:Hirotoshi Sakamoto, Ken-ichi Otake, and Susumu Kitagawa
Communications Materials (Springer Nature) | DOI: 10.1038/s43246-024-00609-x