iCeMS カールトングループ

ジョージア・ケーファー

Georgia Kafer

ケーファーさんとその研究チームは、DNA内で起こる特定の化学変化が、DNA損傷の修復を促進する働きを持つことを発見。将来、細胞の癌化を防ぐ研究につながる可能性が期待されています。 彼女が「今まで関わってきたどの研究よりも楽しい」と目を輝かせるDNA研究とは、どんなものでしょうか。

今回の論文の中で、最も伝えたかったこと(達成できたこと、インパクト、ユニークな点など)を教えてください。

私たちの遺伝情報はDNAにコードされており、そのDNAはメチル化(mC) という小さな「タグ」で修飾されることがあります。その中で、異なる種類のmCが存在することが2011年に発見され、その1つがヒドロキシメチルシトシン(hmC)です。hmCがDNAに付いている理由を知ろうと、世界中でここ5年に渡って研究されてきました。これまでに、hmCは遺伝子発現を促進することや、hmCの欠損が癌と関係しているということが明らかになってきました。そして私たちは、このhmCがDNA損傷部位と関係していることを世界で初めて突き止めました。高解像度顕微鏡を用いて、hmCが損傷を受けたDNA部位に存在することをヒトとマウスの細胞で確認したのです。この発見により、癌研究とDNA修復研究が広範囲に渡って関連することがほのめかされています。

今回の研究で、一番嬉しかった、もしくは感動した瞬間を教えてください。

多くの研究に言えることですが、今回の発見はほぼ「偶然」見つかったものです。元々はhmCの挙動をライブイメージングする方法を構築しようとしていました。このライブイメージングの結果に確証を得るため、まずはhmCの細胞核内での「通常の」見え方のパターンを知る必要があったのです。

抗体を用いてhmCをHeLa細胞(よく使用される癌細胞株)で観察した際、hmCの集積による大きな「点」を見つけて、とても驚いたことを覚えています。このhmCの集積に関しては今までどの論文にも報告されていませんでしたが、それと似たような集積は他の種類の細胞(主に癌細胞)にも存在しており、それがDNA損傷部位と関連があるということを思い出したのです。

次に、私たちはすぐにDNA損傷を標識する抗体を手に入れ、発見したhmCの点が損傷部位と重なり合うか同時に染色してみました。すると、全くその通りだったのです。その2つは完璧に重なりあっていました。まさにとても興奮した瞬間であり、主任研究者を走って探す前に、真っ暗な顕微鏡室で嬉しさのあまり思わずダンスしてしまうほどでした。

今回の研究における最大のチャレンジ、困難は何でしたか?それをどうやって乗り越えましたか?

よくあることですが、時間が最も大きな難題です。hmCはクロマチン生物学の中でも相対的に新しく「流行りの」分野なので、hmCに関係する研究はとても競争が激しいのです。しかしながら、DNA損傷に関しては表面的な知識しか持っておらず、新しいこの領域を知るために時間が必要でした。DNA損傷の研究者にとっては基本的な実験を行うにしても、私にとってはまさに初めてのことであり、もちろん失敗もありましたが、急いで習得する必要がありました。色々試行錯誤した中でも特別思い出深いことは、hmCが損傷部位に「新しく」現れるかどうかを調べるため、細胞核にレーザーでDNA損傷を誘導する「手作りの」システムを構築したことでしょうか。再現性のあるシステムを構築するために「レーザーによるDNA損傷誘導」の条件を主任研究者であるPeter Carltonと一緒に苦労しながら探しました。最終的にこの実験は成功し、美しい「レーザーによるDNA損傷の軌跡」は論文の中に収められました。

今回の研究で学んだことは、あなたの研究人生、研究の方向性のターニングポイントになったと思いますか?もしそうならば、どの様に変わったのかを教えてください。

私の中で研究に対するアプローチ方法は1つに決まっておらず、また変わりやすいものです。いつどんな時も自分が心惹かれるものを深く知りたいのです。だからこそ、グルコース代謝に始まり、生体内での胚の培養、マウスの胎盤形成、ヒトES細胞の分化、そして今回のDNA損傷に至るまで、私の研究テーマはとても幅広いものとなっています。しかし、今回のDNA損傷の研究にはもっとも魅了されたといっても過言ではありません。綿密に体系化・構築された細胞のDNA損傷に対する応答はとても美しく、様々なDNA修復システムが協調し合って働くという、その応答の複雑さに心奪われます。 この2年間を経て、DNA損傷を研究の中心に据えてさらに追い求めていこうという気になりました。この新しい研究に対する熱意と、かつて行っていた発生と幹細胞の研究を融合することができたら、研究者としてとても幸せです。

現在のあなたのポジション、仕事環境を教えてください。iCeMSでの研究を通して得た、知識や経験などはキャリア形成にどのような影響を与えましたか?

オーストラリアで約5年前に博士号を取得し、現在はポスドクとしてここiCeMS Carlton研究室 で働いています。幸いにも私たちの研究は資金に恵まれ(もちろん研究資金は常時募集中!)、そのため少なくともあと1年はこのDNA損傷をテーマとして研究を続けることができると思っています。豊富な財源と「加速研究」というプログラム(新しい発見をすぐに論文にするための補助予算)のおかげもあり、ここiCeMSで働くことで私の「研究人生」はとてもうまくいっています。私の研究キャリアの中で今後ずっと続けたいと思える人間関係をiCeMSで築くことができ、そして将来のプロジェクトにそれをきっと活かすことができると思います。いま日本での生活をとても楽しんでいますが、ここ日本でとても条件の良いオファーがない限り、いつの日か母国であるオーストラリアに戻って仕事しようと思っています。その日が来た時には、iCeMSのような評価の高い研究集団に所属していたことが、私の今後のキャリア形成を後押ししてくれると信じています。

Carlton研究室

日本語訳:田中良尚(Carltonグループ)
※研究者の所属などは、取材当時のものです。

論文情報

5-Hydroxymethylcytosine Marks Sites of DNA Damage and Promotes Genome Stability

Georgia Rose Kafer, Xuan Li, Takuro Horii, Isao Suetake, Shoji Tajima, Izuho Hatada, Peter Mark Carlton

Cell Reports. Volume 14, Issue 6, p1283-1292 (2016)

Published: February 2015

DOI: 10.1016/j.celrep.2016.01.035