CO2からCO2を吸着できる多孔性材料を作成

オレゴン大学 日本学術振興会海外特別研究員
※本研究を行なっていた当時は博士課程学生(堀毛グループ)

門田 健太郎

Kentaro Kadota

 二酸化炭素は環境問題の原因であるとされる一方で、地球上に普遍的に豊富に存在する炭素資源でもあります。大気中の二酸化炭素を価値ある物質・材料に変えることができれば、持続的な社会の実現に繋がります。今回、門田さんと研究チームは、常温・常圧で二酸化炭素から有用な多孔性材料を合成する手法をはじめて発見しました。

今回の論文の中で、最も伝えたかったこと(達成できたこと、インパクト、ユニークな点など)を教えてください。

 今回の研究内容の肝は、「常温・常圧という温和な条件で、二酸化炭素から有用な多孔性材料を簡単に作ることができた」という点です。

 二酸化炭素(CO2)は様々な環境問題の原因であるとされる「厄介者」である一方で、地球上に普遍的豊富に存在する「炭素資源」として捉えることもできます。しかし、反応性の乏しいCO2を有用な物質・材料に変換するためには、貴金属触媒や高温・高圧条件が必要不可欠でした。

 多孔性材料は、その内部にミクロな穴(細孔)を無数に持つ材料であり、身近では浄水器や空気清浄機に入っている活性炭やゼオライトがその例です。近年ますます多孔性材料の研究は発展しており、エネルギー貯蔵からガス分離まで幅広い分野で用いられています。

 今回の研究では、常温・常圧という温和な条件で、アミンを利用することでCO2から多孔性材料の一つである多孔性金属錯体(MOF/PCP)のone-pot合成にはじめて成功しました。合成したMOFは重量比で30%以上がCO2由来ですが、安定な細孔構造を形成しており細孔中にCO2やH2を貯蔵することが可能です。また大気中の希薄なCO2(0.04%)を利用して乾燥空気から直接MOFを組み上げることもできます。

今回の研究で、一番嬉しかった、もしくは感動した瞬間を教えてください。

 一番嬉しかった瞬間は、予想通りの粉末X線回折(PXRD)パターンが得られたときでした。PXRDはX線を用いて固体の原子・分子レベルでの周期的な構造を調べる手法なのですが、構造がきれいに組みあがっていないときはピークがほとんどない(残念な)パターンが得られます。研究に着手してから半年間はほとんどピークも愛想もないようなパターンばかりでしたが、ダメ元で試した反応条件でとても美しい予想通りのパターンが得られた時が間違いなくこの研究の中で最も嬉しく驚いた瞬間でした。

今回の研究における最大のチャレンジ、困難は何でしたか?それをどうやって乗り越えましたか?

 CO2から結晶性のMOFを合成するための条件出しに最も苦労しました。これまでCO2を用いてMOFを作ろうというアイデア自体が皆無で、参考にできる既知の合成・設計指針がなかったためです。この問題を解決するべく、「CO2からMOFを作る」というプロセスを、「CO2を架橋性配位子(MOFの構成要素)に変換する反応」と「MOF構造の結晶化」に細分化し、それぞれのステップで条件の最適化を試みました。最終的に両者をすり合わせることで、常温・常圧・one-potで簡便にCO2からのMOF合成を実現できました。

今回の研究で学んだことは、あなたの研究人生、研究の方向性のターニングポイントになったと思いますか?もしそうならば、どの様に変わったのかを教えてください。

 前の回答とも関連するのですが、「一見複雑に見える問題を細分化して捉えることで突破口が見える」ことを学びました。絡み合った知恵の輪を解いていく楽しさのような研究の醍醐味を味わえた経験は、今後の研究生活においても役立つのではないかと思っています。また、今回iCeMSからプレスリリースしていただいた際に、メディア等で一般の方からも本研究結果に対して様々な反応・反響を頂けたことはとても新鮮な体験でした。ややもすれば研究室内だけの閉鎖的なものになってしまいがちな研究活動ですが、研究成果の社会への還元を見据えることの重要性を認識できた貴重な機会であったと思います。

現在のあなたのポジション、仕事環境を教えてください。iCeMSでの研究を通して得た、知識や経験などはキャリア形成にどのような影響を与えましたか?

 現在は、University of Oregon、Brozek Labで日本学術振興会海外特別研究員として研究をしています。私がiCeMSで学んだことの一つに、いろいろな視点や背景を持つ人と話すことの重要性があります。これは、思いもよらないアイデアを得られるだけでなく、背景の違う相手に自分の研究を説明するために研究内容を再構築することで改めて研究の面白さや課題に気づくことができるからです。この経験は、多様性の高いアメリカの研究室を始め、今後の研究者人生においてとても役立つのではないかと思います。

最後に、iCeMSで現在も研究を行っている若手研究者(ポスドク、学生)にメッセージをお願いします。

 iCeMSは研究室間の垣根が低く、分野を越えたコラボレーションはもちろんのこと、日常的な会話の中にも面白いアイデアが隠れているかもしれません。

※研究者の所属などは、取材当時のものです。

論文情報

One-Pot, Room-Temperature Conversion of CO2 into Porous Metal–Organic Frameworks

Kentaro Kadota, You-lee Hong, Yusuke Nishiyama, Easan Sivaniah, Daniel Packwood, and Satoshi Horike

Journal of the American Chemical Society

Published: October 2021

DOI: 10.1021/jacs.1c08227