実験機器のコンシェルジュ

解析センター 特定助教

本間 貴之

最先端の研究成果は、独創的なアイデアに加え、最先端の技術と実験装置があってこそ。2017年に発足したiCeMS解析センターには、数々の最先端の実験機器がずらりと揃う。研究室単位では購入しにくい高価な機器を管理することで、研究者は経済的な負担を少なく研究をスタートできる。多くの研究者が共用できる環境を整えるには、日頃のまめなメンテナンスや維持管理は欠かせない。 解析センターの本間貴之さんは、機器の管理業務や実験方法の相談をはじめ、研究者が負担を感じることなく安全かつ快適に実験できるよう拠点内を奔走する。

私のしごと

1. 機器の管理

バイオ解析ユニットとマテリアル解析ユニットにいる専門家が一括管理して、拠点内外の研究者に利用していただいています。


2. 実験機器の相談

分野を問わず幅広い相談に対応しています。研究内容をお聞きし、最適な実験機器・方法、より詳しい研究者の紹介をします。


3. トラブル対応

扱うのは人ですから、機器に故障やトラブルは避けられません。実験が止まらないよう、連絡があればすぐに飛んでいきます!


4. 共通利用の仕組みづくり

機器の共通利用は全国的に始まっています。学内外と情報交換し、利用料金の設定や内規作りを含めた制度を作っています。


ほかにも

「解析センター」の一員としてメンバー間、ユニット間の調整をしながら、チーム一丸となり業務にあたっています。

  • 予約システムの管理
  • 利用料金の計算、外部資金の獲得、予算の管理
  • 共通実験室や機器利用が初めての研究者への安全講習
  • 着任・離任する研究室の機器に関するコンサルテーション など

実験に困った時の「コンシェルジュ」として

僕の仕事を一言で言うと、「実験機器のコンシェルジュ」です。材料分野と生物分野が融合したアイセムスには、多様な機器が揃っています。最近は一つの分野だけでなく、いろいろな研究分野を横断する研究をする研究者が多いので、専門分野以外の実験が必要になる方がいらっしゃいます。

でも、その機器を扱ったことがない場合はサポートが必要ですよね。そんな時に僕たちが「この実験にはどの機械を使えばよいのか」、「使い方を教えて欲しい」という相談に対応するのです。ある方が「あの機械でこんな実験がしたい」と言っても、じつは違う機械の方がその目的を果たせることもあります。「本間さんのアドバイスのおかげで実験がうまくいきました!」、「思っていたより早く結果が出て助かりました!」と言っていただけると自分のことのように嬉しいです。

研究者支援の魅力に気づいたポスドク時代

ポスドクとしてインペリアル・カレッジ・ロンドンへ。学科内の他分野研究者をサポートした経験が、現在の仕事に繋がるきっかけに

解析センターでは、バイオ解析ユニットとマテリアルズ解析ユニットに分かれ、それぞれ専門の研究者が責任者として機器を管理しています。僕自身はどちらの分野かに関わらず、困っている研究者が最初に連絡する場となるよう幅広いご相談に対応しています。
それが可能なのは、僕自身がもともと化学専攻の分子細胞生物学者で、バイオエンジニアリングの領域で研究をしていた経験があるからです。京都大学で博士号を取った後、国立研究所勤務等を経て、ポスドクとしてイギリスにあるインペリアル・カレッジ・ロンドンに8年間在籍していました。その時の経験が、ターニングポイントになりましたね。

当時、僕のいた学科は工学系の研究室が多かったのですが、僕はそのなかで数少ない生物系の研究室に所属しており研究室では教授に次ぐ二番目の年長者でした。学科全体の生物系実験の相談・調整役に回ることが多く、工学系の研究者たちからの相談をよく受けていました。自分が苦労した経験を生かして研究者をサポートし、彼らが自分の時よりも実験をスムーズに済ませて研究成果を得るのが面白かったので、これを仕事にしたいなと思い始めたのです。

当時は日本でもURAという専門職の制度が始まるところでした。自分で新しい職種を開拓するような気概で、京都大学にきて研究者をサポートする仕事を始めました。

気軽にふらっと研究できる環境づくりを

アイセムスは2017年に世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)アカデミー認定拠点となり、大きな転換点を迎えました。解析センターは将来的に潤沢な予算を自力で確保して、アイセムス内外の研究者の方が、予算を気にせずそれぞれの研究に集中してもらえればと思っています。とくに機器の購入には力を入れ、その機器を扱う学際領域研究の環境・気風をレベルアップさせたいと考えています。

日本ではあまり習慣化されていませんが、海外では研究者が日本では考えられない短い期間(1~2週間や長期休暇中)だけ滞在するケースは珍しくありません。研究機関がある分野の最先端を走るためには、頻繁に多くの研究者が行き来し、研究交流とネットワーク形成が自然に行われるような体制が必要です。研究を支える知識や経験豊富なスタッフや快適な研究環境があってこそ実現できることですので、そのような研究の御膳立てをするシステムを作りたいです。

実験機器のラインナップなどは海外のトップ大学と全く遜色無く、むしろ日本の旧帝大などは充実している方だと思います。欧州の大学は、ある研究室が機器を購入したら他の研究室にも共有していますが、管理があまり得意でない印象があります。少し壊れたくらいでは修理せず、完全に故障するまで放っておくこともありますし、日頃のメンテナンスはあまり良いとは言えない場合もあります。

日本人の几帳面さや品質管理能力は高いので、そこを磨けば「アイセムスに来れば研究に専念できる」という評判が立ち、研究環境面からトップ研究拠点づくりに貢献できると思っています。京都は海外の方にも人気がありますが、日常の言葉・文化の違いなど、海外から研究しに来るには少し不安なところがあるかもしれません。「充実した環境で成果が出せる」という利点がその不安に勝り、世界中の新進気鋭の研究者が求める場所となればいいなと思います。

【本間さんのある1日】


9:30
出勤、メール等の確認
iCeMS研究棟に出勤し、メールや郵便物の確認。
10:50
機器のトラブル対応
アイセムス本館から電話。機器のトラブルが解消できないとのこと。現場に行って対処、無事に復旧。
12:00
予算申請書の提出
なんとか締めきりぎりぎりで予算申請書類提出。
13:30
問い合わせ対応
昼食を食べながら、外部からの機器利用に関する問い合わせに対応。残念ながら解析センターの機器では実現不可能な実験だったが、学内他部局にある機器が使えそうなので紹介。
14:00
共通実験室の利用講習
研究棟にて、新しくアイセムスに来た研究者に共通実験室のローカルルールや安全衛生に関するトレーニングを実施。
15:00
機器メンテナンス終了
メンテナンスに来ていたエンジニアから終了の説明、確認。
15:30
研究員からの相談対応
研究員が「機器のデータがきちんと取れない」と相談に来たので対応。何をするかいくつか提案。
16:00
新しい機器の情報収集
新しく機器を発売した企業のオンラインセミナーに参加。
19:00
利用後の対応
機器の利用が終了したとの連絡。消毒のために本館へ。
20:00
退勤

【京都大学アイセムスHP】iCeMS解析センター

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