特定助教(亀井グループ)

ルディ・アブドアルカーディル

Rodi Abdalkader

 ルディ・アブドアルカーディルさんは生体がもつ保護機能(バリア)の形成について研究しており、マイクロ流体技術を用いて、目のまばたきを模した刺激の下での角膜バリア機能を再現しました。また、まばたきによる刺激が角膜上皮バリアの機能の成熟に関与していることを発見しました。

今回の論文の中で、最も伝えたかったことを教えてください。

 私は、一つのデバイス上に、ヒトの角膜バリアをいくつも再現できるようなマイクロ流体デバイスを開発しました。このデバイスでは、まばたきのような、一方向と双方向の2種類の流れによる「ずり応力」を加えることができます。まばたき刺激を加えることにより、ヒトの角膜上皮細胞に含まれる中間径フィラメント・サイトケラチン(CK-19;上皮マーカー)の産生が促進されました。これらの結果は、まばたきによって生じるずり応力が、角膜上皮細胞の特性を変化させることを裏付けるものです。つまり、角膜上皮バリアのモデルを構築する際は、ずり応力による流れ刺激を検討することが重要となるのです。このデバイスは、角膜治療薬や点眼薬開発の分野において更なる可能性を切り開き、まばたきによって生じるずり応力が眼表面の恒常性に及ぼす影響についてなど、更なる研究を促進するものと考えています。

今回の研究で、一番嬉しかった、もしくは感動した瞬間を教えてください。

 このプロジェクトを始めたきっかけは、「『まばたきする目』を生体外で作ることができるだろうか」という素朴な問いにあります。これまでに、ヒトの目のバリア(例えば、角膜上皮バリア)をディッシュなどの生体外で構築した経験はありましたが、多くの制御パラメータを必要とするまばたきによる物理的な刺激の再現は、私にとっての挑戦でした。また、生体外におけるまばたきの生物学的効果がまだ明らかではありませんでした。実は、私たちは1時間に1,000回まばたきをすると言われています。それだけ頻繁にまばたきをするからには、最前面の角膜バリアには、まばたきによって生じるずり応力に対処する能力があるはずで、それによって角膜の恒常性を維持しているのでは、と考えました。試行錯誤の末、双方向流システムを用いたマイクロ流体デバイス内に実際のまばたき刺激を模倣する方法を思い付きました。これを実験で証明した時は最高に嬉しかったですね。私の研究結果は、生体外でまばたき刺激を誘発することができること、そして、この刺激が、角膜上皮バリアの機能を維持する上で極めて重要であることを示しています。

今回の研究における最大のチャレンジ、困難は何でしたか?それをどうやって乗り越えましたか?

 研究においては、仮定とそれを実証するために必要な実験ツールとの間に大きなギャップがあるのが常であり、今回のプロジェクトも例外ではありませんでした。例えば、ヒト角膜細胞と適合し、まばたき刺激を発生させることができ、更には医薬品の試験などの製薬分野での応用に適した流体デバイスを確立する必要がありました。そのために、私はこのデバイスを全くゼロから作るにはどうしたらよいか、すなわち、設計から微細加工、そしてヒト角膜細胞を用いた試験までの方法を学ばなければなりませんでした。忍耐、粘り強さ、段階的な実験、そして何よりも想像力を駆使して、多くの困難を乗り越えました。

今回の研究で学んだことは、あなたの研究人生、研究の方向性のターニングポイントになったと思いますか?もしそうならば、どの様に変わったのかを教えてください。

 はい、なりました。今回の研究は、生物学、薬学及び工学を組み合わせた学際的研究の素晴らしい一例であり、今後はさらにこういった方向の研究をしていきたいと思います。将来、このような学際的研究は、動物実験の代替となる疾患モデルの開発など、社会に関わる多くの医療上の問題に対して、解決策をもたらすと考えています。

現在のあなたのポジション、仕事環境を教えてください。iCeMSでの研究を通して得た、知識や経験などはキャリア形成にどのような影響を与えましたか?

 現在、私は特定助教です。私が学際的な研究を始めるには、iCeMSは間違いなく最適な場所です。研究環境は非常に刺激的であり、意欲をかき立てられます。iCeMSの研究者たちは、物質科学、化学、生物学など、様々な学術的バックグラウンドを持っていて、そのため、私たちは互いから学び合うと同時に、共同研究する機会もあります。また、独立した外部資金を受けられるようにもなりました。ここでの研究は、願わくば将来はPIとして働くなど、私のキャリアの次の方向性を見つける助けともなっています。

※研究者の所属などは、取材当時のものです。

論文情報

Multi-corneal barriers-on-a-chip to recapitulate eye blinking shear stress forces

Abdalkader, R, Kamei, K

Lab on a Chip, 20:1410–1417 (2020)

Published: March 2019

DOI: 10.1039/c9lc01256g