研究

2020年3月6日

有機薄膜太陽電池をより高効率により簡便に 新しい電子受容性材料の設計指針

今回開発された電子受容性材料TACICは、これまでの材料に比べ、約50倍も励起状態を長く保つことができる。(イラスト:高宮ミンディ)

 京都大学アイセムスの今堀博(いまほり・ひろし)連携主任研究者(兼工学研究科教授)と梅山有和(うめやま・ともかず) 工学研究科准教授らのグループは、薄膜化した際に励起状態が長寿命化する電子受容性材料を開発することに成功しました。また、その材料を用いた有機薄膜太陽電池は、10%程度の高いエネルギー変換効率を実現しました。

 太陽光発電の中で、有機化合物を用いる有機太陽電池は、実用化が進んでいるシリコン太陽電池と比べ、製造コストを低く抑えられる可能性があり、軽量で柔軟性に富んでいるため、次世代の太陽電池として期待されています。特に、有機薄膜太陽電池は、塗って作製できる取り扱いの容易さや、高いエネルギー変換効率を達成できること、鉛を使わないため環境に優しいことなどから注目を集めています。

 有機薄膜太陽電池の発電層は、電子が不足している電子受容性材料と、電子を豊富に有する電子供与性材料からなる混合薄膜でできています。そのため、高いエネルギー変換効率を実現するには、これらの材料をどのように設計するかが実用化に向けて重要なポイントとなります。

 有機薄膜太陽電池の発電層では、太陽光エネルギーを用いてプラスとマイナスの電荷を発生させています。多くの電荷を発生するためには、電子受容性材料が効率よく太陽光エネルギーを吸収し、それによりできる励起状態が長い寿命を有することが望ましいと言われています。太陽光エネルギーを効率よく吸収するためには、電子受容性材料のバンドギャップが小さい必要があり、一般的にバンドギャップが小さい材料は、励起状態の寿命が短くなってしまいます(「エネルギーギャップ則」として知られている)。本研究では、これを解消する新たな電子受容性材料設計指針の開発に取り組みました。

 電子受容性材料に、ベンゼン環やピリジン環が二次元平面状につながった構造を組み込み、分子間相互作用を制御することで、バンドギャップが小さくとも、励起状態が長く続く材料を作り出すことに世界で初めて成功しました。その電子受容性材料を用いた有機薄膜太陽電池は、10%程度の高いエネルギー変換効率を示しました。

 また、従来の有機薄膜太陽電池では、発電層において電子受容性材料と電子供与性材料をナノメートルレベルで混合する必要があります。しかし、ナノレベルの混合を再現性良く実施することが、技術的に難しいことが、実用化への障害の一つとなっていました。今回、開発した電子受容材料のように励起状態が長寿命化すれば、原理上ナノレベルの混合をする必要がなくなるため、有機薄膜太陽電池の実用化に向けた非常に大きな一歩となることが期待されます。

 本研究成果は英国王立化学会誌「Chemical Science(化学の科学)」に2020年3月5日(英国時間)に掲載予定です。

詳しい研究成果はこちら

“Efficient light-harvesting, energy migration, and charge transfer by nanographene-based nonfullerene small-molecule acceptor exhibiting unusually long excited-state lifetime in film state” (PDF)

(参考訳:薄膜状態で極めて長い励起状態寿命を示すナノグラフェン型非フラーレン電子受容体による高効率な光捕集、エネルギー輸送、および電荷移動)

書誌情報

DOI: 10.1039/C9SC06456G

著者:Tomokazu Umeyama, Kensho Igarashi, Daiki Sasada, Yasunari Tamai, Keiichi Ishida, Tomoyuki Koganezawa, Shunsuke Ohtani, Kazuo Tanaka, Hideo Ohkita and Hiroshi Imahori