研究

2024年3月6日

マウス精巣を用いた 個体内遺伝子スクリーニング系の開発

リバイバルスクリーニング法をマウスの精巣に応用し、精子の品質決定に関わる遺伝子を同定。さらに、新たに開発したソフトウェアで、その遺伝子を制御する分子シグナル経路を推定することが可能に(©️高宮ミンディ/京都大学アイセムス)

 京都大学アイセムス(高等研究院 物質―細胞統合システム拠点)の鈴木淳教授、野口勇貴特定研究員、圓岡真宏特定助教らの研究グループは、北海道大学の小野寺康仁准教授、山口大学の宮本達雄教授、徳島大学の小迫英尊教授らのグループと共同で、個体臓器を用いた遺伝子スクリーニング系の開発に成功しました。この成果は、3 月 6 日(日本時間)に Cell Genomics誌(Cell Press)においてオンライン公開されます。

 <概要>
 個体を構成する各臓器は、個々の細胞で起こるさまざまな生化学反応が連動することで機能を発揮しています。生化学反応の各過程を制御するタンパク質は、遺伝子に情報がおさめられており、それぞれの細胞で発現し機能する遺伝子を同定することにより、生化学反応の理解が進みます。これまで、特にがん細胞などの細胞株を用いて、特定の生化学現象に注目した網羅的な遺伝子の解析(スクリーニング)が行われてきました。近年では、ノーベル賞を受賞したCRISPR Cas9 システムを用いた遺伝子のスクリーニングが行われてきましたが、個体の臓器レベルでのスクリーニングを行うことは困難でした。今回、野口研究員らは、個体臓器、特にマウスの精巣を用いた遺伝子スクリーニング系を開発し、精子の品質を決定する遺伝子を同定することに成功しました。

 マウス精巣内で精子幹細胞から発生する精子は、受精能獲得刺激により精子尾部・頭部において細胞外カルシウムが流入することで活性化し、卵子との受精が可能となります。ゆえに、カルシウムの流入は、精子の品質(受精獲得能)を保証する指標の一つとして適用することができます。そこで野口研究員は、受精能を有する精子の品質を規定する遺伝子を同定することを目的として研究を進めました。まず、マウス精巣の生殖細胞において遺伝子をランダムに欠損させ、成熟した精子のカルシウムの流入を指標として、精子の品質決定に関与する因子を同定することを試みました。この時、一度同定した遺伝子群を別のマウスの精巣で欠損させることで、偽陽性の遺伝子を排除し、真に関与する遺伝子のみを絞り込む方法論を確立しました。さらに、同定した因子 RD3 の結合因子とそれらの発生時における発現解析から、発生時のどのような状況下において RD3 が機能するか、計算機を用いて特定する方法論も確立しました。これらの技術を組み合わせることで、円形精子が発生の特定の時期にミトコンドリアを適切に分布させ活性酸素を減少させる巧妙な仕組みが明らかになり、それが精子の品質を保証することも分かりました。

 本研究により、精子の品質を網羅的に同定する方法論が確立されました。今後、今回確立されたスクリーニング技術を改善することで、より多くの遺伝子が同定され、不妊のメカニズムの解明、さらに避妊薬の開発が進むことが期待されます。また、同様のスクリーニングの方法論は他の臓器においても用いることができるため、今後、他の生化学現象の解明、並びに創薬標的の発見にも繋がることが期待されます。

詳しい研究成果について

マウス精巣を用いた 個体内遺伝子スクリーニング系の開発

書誌情報

論文タイトル:“In vivo CRISPR screening directly targeting testicular cells”
著者:Yuki Noguchi, Yasuhito Onodera, Tatsuo Miyamoto, Masahiro Maruoka, Hidetaka Kosako, Jun Suzuki

Cell Genomics | DOI: 10.1016/j.xgen.2024.100510